抗HIV治療ガイドライン(2024年3月発行)

XVI医療従事者におけるHIVの曝露対策

5.曝露事象から予防内服開始までの時間的猶予

 理論的に、最大の予防効果を得るためには曝露から予防内服までの時間は出来るだけ短くすべきである。明確なエビデンスは存在しないが、曝露後から72時間以上が経過した場合には、曝露後予防の効果はほぼ期待できない可能性が高いと考えられている。

 複数のガイドラインが曝露後数時間以内の開始を推奨している。米国CDCガイドラインには「PEP should be initiated as soon as possible, preferably within hours of exposure」と記載されており、「可能な限り速やかに。数時間以内には開始」が望ましいとしている7)。米国ニューヨーク州のガイドライン(2022年)には「An HIV exposure is a medical emergency and rapid initiation of PEP—ideally within 2 hours and no later than 72 hours post exposure—is essential to prevent infection.」と記載され、「2時間以内」の目安が示されている13)。また2008年の英国のガイドラインには「PEP should be commenced as soon as possible after exposure, allowing for careful risk assessment, ideally within an hour」と記載され、「1時間以内」の目安が示されている14)。2014年の英国の調査では、HIVの予防内服をした者のうち89%(535/598)が24時間以内に内服を開始し、感染事例はなかったと報告されている15)

 理論的に予防内服は「可能な限り速やかに」行う必要がある事はほぼ間違いない。したがって、先述のように夜間や週末を含めたすべての時間帯で、速やかな曝露後予防内服が対応可能な体制を確立する必要がある。

 一方、曝露後72時間以降では予防内服の有用性が期待できない可能性があるが、HIV伝播のリスクが高く、かつ被曝露者が予防内服を希望する場合には曝露後72時間以降であっても予防内服開始を考慮してよい7)

 予防内服適応の判断が難しく、かつ専門家への相談がすぐに出来ない場合でも、予防内服開始のタイミングが遅くならないよう被曝露者の同意後に速やかに1回目の内服を実施すべきである。その後に2回目以降の内服を継続するかどうかを専門家に相談する。

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