XV小児、青少年期における抗HIV療法
6.抗HIV療法の変更
治療変更が考慮されるのは、治療の失敗、副作用や服薬困難、他のレジメンの方が現在のレジメンよりも優れているという新しいデータが示された場合、などである。
このうち治療の失敗は、ウイルス学的・免疫学的・臨床的の3つの指標から判断され、通常は、まずウイルス学的失敗が最初に起き、続いて免疫学的な指標の低下が起きて、最終的に臨床的な失敗へとつながる。しかし、小児では、ウイルス学的失敗の判断が成人以上に難しい。これは、小児(特に乳児)の血中HIV RNA量が成人と比べると高く、ウイルス量の減少に時間を要することと、強力な治療を行っていても血中HIV RNA量を検出感度以下にできないことがしばしばあることによる。血中HIV RNA量が1,000から50,000コピー/mLで検出され続けている治療児でも、高いCD4数を保てて、臨床的によい経過をたどっていることもある。このように生物学的なばらつきがあるため、2歳未満の乳児では0.7 log10コピー/mLを超える差(5倍の差)、2歳以上の小児では0.5log10コピー/mLを超える差(3倍の差)のみを、臨床的に重要な血漿中ウイルス量の変化とみなすべきである。しかし、ウイルス複製を十分に抑えきれていなければ、耐性変異獲得のリスクは高まると考えられ、どの程度のウイルス量が持続して残存することまでを許容するかに関しては、専門家の間でもまだ議論がある。表XV-5に、現在の米国のガイドラインが提唱する治療失敗の判断指標をまとめた。治療失敗の判断は慎重に行う必要があり、1回の検査値だけで判断することは戒めねばならない。
成人同様に小児でも治療の失敗と鑑別すべき病態として免疫再構築症候群immune reconstitution inflammatory syndrome:IRISがある。小児では結核、BCG、水痘帯状疱疹によるIRIS報告が多く、他に非結核性抗酸菌症、単純ヘルペス、クリプトコックス、肺炎球菌敗血症、重症脂漏性湿疹もあげられている27)。IRISでは通常治療薬を変更・中止しないが、ステロイドを併用することが多い(X章参照)。
表XV-5 小児HIV感染症において治療変更を考慮する場合
ウイルス量による判断 (1週間以上の間隔をおいた2回以上の検査値を見て判断する) |
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免疫学的側面からの判断 (1週間以上の間隔をおいた2回以上の検査値を見て判断する) |
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臨床的側面からの判断 |
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