IX抗HIV薬の副作用
2.肝機能障害
すべての抗HIV薬において肝機能障害を起こす可能性がある。無症候性の場合には投与継続しても自然に改善することがあるが、トランスアミナーゼが上昇してきた初期には注意観察をすべきである。
ミトコンドリア障害をきたすNRTIの使用にて肝臓の脂肪変性を伴う肝機能障害を生じ、さらにこれらの肝障害は薬剤中止後も持続する可能性がある31)。また、前項で述べた糖・脂質代謝障害を背景に起こるmetabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(MASLD)も肝硬変、肝癌へ進行することが言われており注意が必要である32, 33)。スイスのコホート研究では、ART中のHIV患者の間で脂肪肝の有病率が高いこと、確立された危険因子(年齢・BMI)に加えて、TAFの使用が脂肪肝と関連していたことが報告されている。一方INSTIは脂肪肝と関連していなかった34)。
B型肝炎を合併するHIV感染者に、HBVに対する治療薬としても有効な3TC、FTC、TDFあるいはTAFなどの投与を開始した後、これらの薬剤を中止すると重篤な肝障害を引き起こしてしまう場合がある。またHBVやHCVとの重複感染者では薬剤の肝毒性が高まるため注意が必要である。ddI(現在は販売中止)の長期曝露が食道静脈瘤を伴う非肝硬変性門脈圧亢進症と関連することが報告されており、長期投与を受けていた例には注意が必要である35)。