XIIIHIV/HCV共感染者での抗HIV療法
12.HIV/HCV共感染症の抗HCV療法 DAA併用療法
HCV感染症の治療にIFNが使われることは現在基本的にはない。IFN治療に関することは2019年までのガイドラインを参照して頂きたい。また、経口薬のみを用いた治療についても現在行われない治療に関する記載は簡略化した。
(1)Genotype 1,2の治療
本邦でも2014年9月にIFNを使わないDAAのみによる治療(asunaprevir + daclatasvir)が認可された。simeprevirと同じ大環状型のプロテアーゼ阻害薬であるasunaprevirと、NS5Aの阻害薬であるdaclatasvirを24週間併用する治療であったが、現在は治療期間が長いこと、薬剤耐性の問題から本邦では行われることはない。
2015年5月にはGenotype 2の症例に対するsofosbuvir(NS5B阻害薬)とribavirin併用療法が保険認可されたが、現在Genotype 2に対する第一選択は後述する“glecaprevir/pibrentasvir併用療法”、“ledipasvir+sofosbuvir 併用療法”、もしくは“velpatasvir+sofosbuvir 併用療法”である。
Genotype 1の場合はNS5A阻害薬であるledipasvirとsofosbuvirの12週間併用療法が国内でも臨床試験として行われており、100%に近いウイルス排除率が得られている94)。同様の高い奏功率が海外でも報告されており95-97)、“ledipasvir+sofosbuvir 12週併用療法”は世界的に標準療法となっている。
HCV/HIV共感染例においても95%以上の高いウイルス排除率が報告されている98, 99)。国内からもHCV/HIV共感染者に対する臨床成績が報告され、高い著効率が得られている100, 101)。
第二世代プロテアーゼ阻害薬であるgrazoprevirと第二世代NS5A阻害薬であるelbasvirの併用療法も2016年から可能になった。しかしながら後述するpangenotypic DAAに置き換わられ、現在grazoprevir、elbasvir併用療法は行われていない。
NS5A阻害薬であるLedipasvirに代わりつつあるのがVelpatasvirである。この薬剤を使用した臨床試験は“ASTRAL”という共通の名前がついているが、Genotype 1, 2, 4, 5, 6で有効性と安全性を示したのが“ASTRAL-1”である102)。もともと薬剤耐性を有する難治例(リバビリン併用)、非代償性肝硬変に対する薬として開発された。治療期間は12週間(前治療失敗例では24週間)であるものの、本邦の臨床試験でも優れた効果・安全性が証明され103, 104)、引き続いて慢性肝炎に対する適応が認可された。HIV合併例に対しても“ASTRAL-5”が行われ、優れた効果と安全性が証明された105)。
(2)Genotype 3の治療
Genotype 1, Genotype 2は90%を超えるウイルス排除が可能になった。現在残された最大の問題はGenotype 3の治療である106)。Genotype 3はヨーロッパや南アジアで高頻度に見られる。日本では輸入血液製剤の使用歴のある血液凝固異常の患者を中心に2000〜3000人程度の患者がいると推定される。
Genotype 3 HCVの症例は高率に脂肪肝を伴い107, 108)、線維化の進展も速い109, 110)ため肝細胞癌のリスクも高い111, 112)。それにもかかわらずペグインターフェロン・リバビリン併用療法に対する反応も悪い113, 114)。インターフェロンフリー治療の役割が他のGenotype以上に期待される。
Genotype 3 HCVに対するインターフェロンフリー治療の第一選択薬の一つは後述する“glecaprevir/pibrentasvir 12週間併用療法”になっている。Genotype 1に対する標準療法である“sofosbuvir + ledipasvir 12週間併用療法”のGenotype 3に対する成績も最近公表されたが115)、初回投与例でのSVR12は64%であった。Genotype 3に対してはsofosbuvir + daclatasvir(ledipasvir同様NS5A阻害薬)による治療が行われ、こちらは初回投与例で90%、再治療例で86%と高いSVR12が得られている。しかしながら肝硬変例に対するSVR12は60%台である116)。本邦では血液凝固因子製剤によるHIV/HCV共感染例を対象としたsofosbuvir + daclatasvirによる医師主導臨床試験が行われ、高い効果が示されている117)。
上述した“velpatasvir+sofosbuvir 併用療法”はGenotype 3に対しても効果と安全性が証明された118)。また、HIV感染例に対する有効性・安全性は"ASTRAL-5"で証明されている。
(3)pangenotypic DAA
2017年秋にすべてのHCV genotypeに効果のある“pangenotypic”なレジメンとして第二世代のプロテアーゼ阻害薬であるglecaprevirと第二世代のNS5A阻害薬pibrentasvirとの合剤が発売された。PIを中心としたいくつかの抗HIV薬との併用には注意が必要だが、効果が高く安全な薬である。Genotype3を含むGenotype 1-6に高い有効性が示されており119-122)、HIV共感染例にも安全で有効であることが報告されている123)。また、これらのDAA併用療法でウイルスが排除できなかった場合103)、非代償性肝硬変の場合は同じく“pangenotypic”なレジメンであるsofosbuvir/velpatasvirによる治療も可能である104)。ただしこの治療を前治療不成功例に対して行う際には薬剤耐性の評価を始め肝臓専門医への相談が強く勧められる。また、非代償性肝硬変の症例に対してもsofosvuvir/velpatasvirによる12週間の治療を行う際には治療中の食道静脈瘤破裂、感染症の併発、治療後の発癌など細心の注意を払う必要があり、十分に経験のある肝臓専門医に相談の上行うことが強く勧められる。なお、2022年には前述の通りsofosbuvir/velpatasvir治療が慢性肝炎期から可能になった。12週間の治療を基本とし、前治療歴のある場合は24週間投与が基本的なレジメンである。HIV重複感染者に対する有効性・安全性も確立されている105)。
いずれにしても以上の成績からはDAA併用療法はHIV感染の有無によってSVRに差がないことを示しており、それを支持する成績も出てきている124)。今後はHIV共感染例に対しての独立した臨床試験は不要との議論も出てきている125)。
このような状況でDAAによる抗HCV治療を行う際の最も重要な注意点は、併用薬剤とDAAとの薬物相互作用である。いずれのDAAも多くの併用禁忌薬、併用注意薬を有しており、多くの抗HIV薬がその中に含まれている。
HIV共感染例では、使用されている抗HIV薬との薬物相互作用を確認し、場合によって抗HIV薬を変更したうえで、HCV治療を行う必要がある。また各治療法によりその特徴が異なるため各薬剤の特色を把握したうえで治療薬を選択する必要がある。
なお、sofosbuvirは腎代謝であるため、高度腎機能障害(eGFR<30ml/min/1.73m2)や透析患者では禁忌となっている。抗HIV薬のなかではテノホビルの血中濃度が上昇する場合があるため併用注意となっている。
現時点でのHIV/HCV共感染症に関する治療を(表XIII-1)にまとめた。
表XIII-1 HIV/HCV共感染例におけるHCV治療※1
Genotype | 第一選択 | 第二選択 |
---|---|---|
1(1a, 1b) | GLE/PIB SOF/VEL※2 LDV/SOF※2 |
|
2(2a, 2b) | GLE/PIB SOF/VEL※2 LDV/SOF※2 |
SOF/RIB(12w)※2 |
3 | GLE/PIB SOF/VEL※2 |
SOF/RIB(24w)※2 |
上記以外 | GLE/PIB SOF/VEL※2 |
SOF/RIB(24w) LDV/SOF※2, 3 |