抗HIV治療ガイドライン(2024年3月発行)

IX抗HIV薬の副作用

8.体重増加

 HRD共同調査による日本人における治療開始後の体重の推移を図IX-4に示す94)

図IX-4 日本人における治療開始後の体重の推移
<調査対象全症例における治療開始後の体重の推移>
体重の推移(インテグラーゼ阻害剤の有無別)
(調査期間:1997年8月から2022年3月)
治療経験が無い患者(naïve患者)
横軸が投与後月数で縦軸が体重の変化(%)の折れ線グラフ。Non INSTI Treatment Naïveは投与後月数が0の時、n=1188。投与後月数が12の時、n=1130で体重の変化はSDが約-3%で平均が約3%。投与後月数が24の時、n=824で体重の変化はSDが約-3%で平均が約3%。投与後月数が36の時、n=619で体重の変化はSDが約-3%で平均が約3%。投与後月数が48の時、n=425で体重の変化はSDが約-3%で平均が約4%。投与後月数が60の時、n=241で体重の変化はSDが約-3%で平均が約4%。投与後月数が72の時、n=115で体重の変化はSDが約-3%で平均が約4%。投与後月数が84の時、n=51で体重の変化はSDが約-3%で平均が約3%。投与後月数が96の時、n=9で体重の変化はSDが約-6%で平均が約0%。投与後月数が120の時、n=1で体重の変化は平均が約-3%。INSTI Treatment Naïveは投与後月数が0の時、n=1121。投与後月数が12の時、n=1068で体重の変化はSDが約9%で平均が約3%。投与後月数が24の時、n=750で体重の変化はSDが約10%で平均が約3%。投与後月数が36の時、n=459で体重の変化はSDが約11%で平均が約3%。投与後月数が48の時、n=216で体重の変化はSDが約11%で平均が約4%。投与後月数が60の時、n=137で体重の変化はSDが約12%で平均が約5%。投与後月数が72の時、n=47で体重の変化はSDが約14%で平均が約5%。投与後月数が84の時、n=8で体重の変化はSDが約9%で平均が約5%。
1)治療経験が無く(naïve)かつINSTIを投与がない患者
2)治療経験が無く(naïve)かつINSTIを投与がある患者
† 本調査の登録時に抗HIV薬処方歴が無の症例(抗HIV薬併用療法の薬剤うち1剤でも変更された時点で脱落とし、experencedに移行)
※0ヶ月のベースラインはINSTIを問わず抗HIV薬の治療開始時点とした。
治療経験が有る患者(experienced 患者)
横軸が投与後月数で縦軸が体重の変化(%)の折れ線グラフ。Non INSTI Treatment Naïveは投与後月数が0の時、n=1348。投与後月数が12の時、n=1240で体重の変化はSDが約-4%で平均が約0%。投与後月数が24の時、n=1057で体重の変化はSDが約-4%で平均が約1%。投与後月数が36の時、n=866で体重の変化はSDが約-5%で平均が約1%。投与後月数が48の時、n=702で体重の変化はSDが約-5%で平均が約1%。投与後月数が60の時、n=538で体重の変化はSDが約-5%で平均が約2%。投与後月数が72の時、n=439で体重の変化はSDが約-5%で平均が約2%。投与後月数が84の時、n=322で体重の変化はSDが約-5%で平均が約3%。投与後月数が96の時、n=227で体重の変化はSDが約-6%で平均が約3%。投与後月数が108の時、n=161で体重の変化はSDが約-8%で平均が約3%。投与後月数が120の時、n=100で体重の変化はSDが約-10%で平均が約3%。投与後月数が132の時、n=72で体重の変化はSDが約-8%で平均が約1%。投与後月数が144の時、n=38で体重の変化はSDが約-9%で平均が約1%。投与後月数が156の時、n=25で体重の変化はSDが約-8%で平均が約3%。投与後月数が168の時、n=21で体重の変化はSDが約-10%で平均が約3%。投与後月数が180の時、n=17で体重の変化はSDが約-8%で平均が約0%。投与後月数が192の時、n=10で体重の変化はSDが約-5%で平均が約-1%。投与後月数が204の時、n=2で体重の変化はSDが約-7%で平均が約0%。投与後月数が216の時、n=2で体重の変化はSDが約-9%で平均が約1%。投与後月数が228の時、n=1で体重の変化は約-3%。
						     INSTI - Treatment Experiencedは投与後月数が0の時、n=1272。投与後月数が12の時、n=1139で体重の変化はSDが約6%で平均が約2%。投与後月数が24の時、n=1105で体重の変化はSDが約7%で平均が約3%。投与後月数が36の時、n=884で体重の変化はSDが約10%で平均が約3%。投与後月数が48の時、n=760で体重の変化はSDが約11%で平均が約4%。投与後月数が60の時、n=572で体重の変化はSDが約11%で平均が約4%。投与後月数が72の時、n=417で体重の変化はSDが約12%で平均が約4%。投与後月数が84の時、n=321で体重の変化はSDが約12%で平均が約4%。投与後月数が96の時、n=199で体重の変化はSDが約11%で平均が約4%。投与後月数が108の時、n=138で体重の変化はSDが約13%で平均が約4%。投与後月数が120の時、n=118で体重の変化はSDが約13%で平均が約4%。投与後月数が132の時、n=95で体重の変化はSDが約14%で平均が約3%。投与後月数が144の時、n=80で体重の変化はSDが約11%で平均が約4%。投与後月数が156の時、n=71で体重の変化はSDが12%で平均が約4%。投与後月数が168の時、n=59で体重の変化はSDが約10%で平均が約3%。投与後月数が180の時、n=49で体重の変化はSDが約11%で平均が約4%。投与後月数が192の時、n=37で体重の変化はSDが約12%で平均が約4%。投与後月数が204の時、n=29で体重の変化はSDが約11%で平均が約4%。投与後月数が216の時、n=29で体重の変化はSDが約12%で平均が約4%。投与後月数が228の時、n=24で体重の変化はSDが約13%で平均が約4%。投与後月数が240の時、n=21で体重の変化はSDが約10%で平均が約3%。投与後月数が252の時、n=13で体重の変化はSDが約9%で平均が約3%。投与後月数が264の時、n=9で体重の変化はSDが約7%で平均が約2%。投与後月数が276の時、n=7で体重の変化はSDが約8%で平均が約3%。
3) 治療経験が有り(experienced)かつ本調査前及び本調査期間中においてINSTIの投与がない患者
4) 治療経験が有り(experienced)かつ本調査前及び本調査期間中においてINSTIの投与がある患者
‡ 本調査の登録時に抗HIV薬処方歴が有の症例または、naïveの患者において抗HIV薬併用療法の薬剤が1剤でも変更された症例
※0ヶ月のベースラインはINSTIを問わず抗HIV薬の治療開始時点または、初めて併用療法の薬剤が1剤でも変更された時点

 INSTIを含む初回治療ではNNRTIやPIを含むレジメンよりも体重増加が大きいと報告されている95-100)。INSTI間の比較では初回治療の無作為化臨床試験において、ベースラインからの平均体重増加はBICとDTGでは同等でEVG/cobiよりは大きかった95)。しかしながら、臨床コホートにおいて体重増加にはINSTI間の差は認められなかったという報告も出ている101)。FLAIR試験において持効性注射製剤CAB+RPVと経口薬DTG/ABC/3TCの比較では体重変化に差を認めなかった102)。NNRTIの中ではRPVの方がEFVよりも体重増加が大きい95)。DORベース治療、DRV+rtvベース治療、EFVベース治療の3つの初回治療の臨床試験の解析(男性85%。白人63%、黒人20%)では96週での体重増加の平均値はそれぞれ2.4kg、1.8kg、1.6kgと類似の結果であった103)。NRTIでは、TAFを用いた初回治療ではTDFを用いたレジメンよりも体重増加が大きいという報告がある95, 96)。HIV非感染MSM(白人84%、黒人9%、アジア人4%)を対象としたPrEP(曝露前予防:pre-exposure prophylaxis)に関する研究において、96週後にはTDFでは0.5kg、TAFでは1.7kgの体重増加が認められた104)。TDFでは体重増加抑制効果が認められるのに比較してTAFでは一般人口の体重増加に近い変化であるとする論文もある95)

 薬剤変更に伴う体重変化に関しては、EFVからEVG/cobiへの変更、EVG/cobiからDTGもしくはBICへの変更により体重増加を認めたが、DTGもしくはブーストPIからBICへの変更では有意な体重変化は見られなかったと報告されている105)前述のREPRIEVE試験の参加者を対象とした解析では、INSTIの使用は、最初の2年間はBMI増加と関連していたが、それ以降は関連が認められなかった106)TDFからTAFに変更した場合、特にINSTIとの組み合わせの場合に体重増加が大きく107)、また、変更後9ヵ月間での体重増加が大きいという報告がある108)。逆にTAFからTDFへの変更にて、体重増加が抑制されたとする報告がある109, 110)

 経口薬(BIC/FTC/TAF)から持効性注射製剤であるCAB+RPV注へ変更した際の体重変化は、SOLAR試験の48週における解析において注射剤変更群で-0.40kg、BIC/FTC/TAF継続群では0.05kgの体重増加であった。同様に、胴囲、ウエストとヒップの比率、およびインスリン抵抗性の変化は、2群間で類似していた111)

 抗HIV薬関連の体重増加は、治療開始時のCD4数低値、血中HIV RNA量高値、女性、人種(黒人とヒスパニック系)が関与する95, 96, 100, 112, 113)。そのメカニズムとしては、治療開始時の"return to health"の概念も含め様々な機序が想定されている114)。INSTIは脂肪細胞に直接作用し、脂肪細胞の分化・代謝に影響することが報告されている115, 116)

 ADVANCE試験(年齢中央値31歳)で最も体重増加の大きかったTAF/FTC+DTG群ではQDIABETESを用いた概算による10年後の糖尿病発症リスクは上昇すると予測され、QRISKを用いた概算では心血管リスクは上昇しないと予測された117)。D:A:D試験においては、BMI増加に伴い糖尿病は増加したが心血管疾患は増加しなかった118)。ARTによる体重増加がCVD発症や生命予後に与える影響については対象者の背景やARTの種類によっても異なり、今後、長期にわたり経過を観察していく必要がある。

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