IX抗HIV薬の副作用
8.体重増加
HRD共同調査による日本人における治療開始後の体重の推移を図IX-4に示す94)。
図IX-4 日本人における治療開始後の体重の推移
INSTIを含む初回治療ではNNRTIやPIを含むレジメンよりも体重増加が大きいと報告されている95-100)。INSTI間の比較では初回治療の無作為化臨床試験において、ベースラインからの平均体重増加はBICとDTGでは同等でEVG/cobiよりは大きかった95)。しかしながら、臨床コホートにおいて体重増加にはINSTI間の差は認められなかったという報告も出ている101)。FLAIR試験において持効性注射製剤CAB+RPVと経口薬DTG/ABC/3TCの比較では体重変化に差を認めなかった102)。NNRTIの中ではRPVの方がEFVよりも体重増加が大きい95)。DORベース治療、DRV+rtvベース治療、EFVベース治療の3つの初回治療の臨床試験の解析(男性85%。白人63%、黒人20%)では96週での体重増加の平均値はそれぞれ2.4kg、1.8kg、1.6kgと類似の結果であった103)。NRTIでは、TAFを用いた初回治療ではTDFを用いたレジメンよりも体重増加が大きいという報告がある95, 96)。HIV非感染MSM(白人84%、黒人9%、アジア人4%)を対象としたPrEP(曝露前予防:pre-exposure prophylaxis)に関する研究において、96週後にはTDFでは0.5kg、TAFでは1.7kgの体重増加が認められた104)。TDFでは体重増加抑制効果が認められるのに比較してTAFでは一般人口の体重増加に近い変化であるとする論文もある95)。
薬剤変更に伴う体重変化に関しては、EFVからEVG/cobiへの変更、EVG/cobiからDTGもしくはBICへの変更により体重増加を認めたが、DTGもしくはブーストPIからBICへの変更では有意な体重変化は見られなかったと報告されている105)。前述のREPRIEVE試験の参加者を対象とした解析では、INSTIの使用は、最初の2年間はBMI増加と関連していたが、それ以降は関連が認められなかった106)。TDFからTAFに変更した場合、特にINSTIとの組み合わせの場合に体重増加が大きく107)、また、変更後9ヵ月間での体重増加が大きいという報告がある108)。逆にTAFからTDFへの変更にて、体重増加が抑制されたとする報告がある109, 110)。
経口薬(BIC/FTC/TAF)から持効性注射製剤であるCAB+RPV注へ変更した際の体重変化は、SOLAR試験の48週における解析において注射剤変更群で-0.40kg、BIC/FTC/TAF継続群では0.05kgの体重増加であった。同様に、胴囲、ウエストとヒップの比率、およびインスリン抵抗性の変化は、2群間で類似していた111)。
抗HIV薬関連の体重増加は、治療開始時のCD4数低値、血中HIV RNA量高値、女性、人種(黒人とヒスパニック系)が関与する95, 96, 100, 112, 113)。そのメカニズムとしては、治療開始時の"return to health"の概念も含め様々な機序が想定されている114)。INSTIは脂肪細胞に直接作用し、脂肪細胞の分化・代謝に影響することが報告されている115, 116)。
ADVANCE試験(年齢中央値31歳)で最も体重増加の大きかったTAF/FTC+DTG群ではQDIABETESを用いた概算による10年後の糖尿病発症リスクは上昇すると予測され、QRISKを用いた概算では心血管リスクは上昇しないと予測された117)。D:A:D試験においては、BMI増加に伴い糖尿病は増加したが心血管疾患は増加しなかった118)。ARTによる体重増加がCVD発症や生命予後に与える影響については対象者の背景やARTの種類によっても異なり、今後、長期にわたり経過を観察していく必要がある。