抗HIV治療ガイドライン(2024年3月発行)

XVI医療従事者におけるHIVの曝露対策

4.抗HIV薬の予防内服開始について

 2013年の米国CDCガイドラインは、HIV感染のリスクが高い場合には曝露後に抗HIV薬の多剤併用投与を開始し、4週間(28日間)は予防内服を継続することを推奨している7)。HIV曝露後のPEPを実施すべきか否かについては、それぞれの事例について感染成立のリスクを考慮しつつ、専門医と相談の上で最終的には被曝露者が決定する権利を有する。

 PEP実施に要する薬剤および検査に要する費用は健康保険の給付対象ではないため自費扱いとなるが、その費用は被曝露者ではなく、一義的には曝露事象が発生した医療機関に負担義務が存在し、PEPに要する費用は基準を満たせば労災保険の給付対象である11, 12)。平成22年9月9日の厚生労働省健康局疾病対策課長通知(健疾発0909第1号)の発出以降、HIVに対するPEPは労災保険の給付対象となったが、一方で実施されたPEP全てが給付対象となるわけではない。通知内ではその給付対象を「HIVに汚染された血液等」による曝露事象に限定している(資料XVI-2)。したがって、「曝露源が最終的にHIV陰性と判明した」場合や、「曝露源が不明」の場合に実施されたPEP費用については給付対象とはならない。国立国際医療研究センターで2015年8月から2017年1月までに実施した17件のPEPのうち7例は給付対象外と判断されていた。うち4例はPEP開始後に曝露源がHIV陰性であったためPEP終了とした例であり、3例は曝露源が特定できなかった事例のPEP完遂例であった。

 曝露事象は時間外に発生する場合も多いため、その場合には救急外来もしくは当直医師により、遅滞なく曝露後予防の抗HIV薬を開始できるような体制づくりが必要である。資料XVI-3はそのような場合に、救急科医師、当直医師が緊急対応し、平日日中の感染症外来につなげるためのマニュアルの一案である。これを参考に、各施設に対応可能なマニュアルを作成しておく事が望ましい。

資料XVI-1 (文献10より抜粋)

2医療機関におけるHIV検査実施について

患者に対する検査実施に当たっては以下の点に十分配慮すること。

(1)患者本人の同意を得ること。

 観血的処置を行う場合において医療機関内感染防止を主たる目的としてHIV検査を実施する場合にも、患者の同意が必要であること。

 患者本人が意識不明である等により同意がとれない状況においては、医師の判断によってHIV検査を実施することも認められる。小児患者に対してHIV検査を実施する場合には、保護者の同意を得て行う。

 なお、HIV検査の実施に当たって患者の同意が得られない場合には、HIVに感染している可能性があることを前提として対応する。

資料XVI-2 (文献11より抜粋)

2エイズについて

(3)労災保険上の取扱い

エイズについては、現在、HIV感染が判明した段階で専門医の管理下に置かれ、定期的な検査とともに、免疫機能の状態をみてHIVの増殖を遅らせる薬剤の投与が行われることから、HIV感染をもって療養を要する状態とみるものである。

 したがって、医療従事者等が、HIVの感染源であるHIV保有者の血液等に業務上接触したことに起因してHIVに感染した場合には、業務上疾病として取り扱われるとともに、医学上必要な治療は保険給付の対象となる。

イ 血液等に接触した場合の取扱い
(イ)血液等への接触の機会
医療従事者等が、HIVに汚染された血液等に業務上接触する機会としては、次のような場合が考えられ、これらは業務上の負傷として取り扱われる。
  1. HIVに汚染された血液等を含む注射針等(感染性廃棄物を含む。)により手指等を受傷したとき。
  2. 既存の負傷部位(業務外の事由によるものを含む。)、眼球等にHIVに汚染された血液等が付着したとき。
(ロ)療養の範囲
  1. 前記(イ)に掲げる血液等への接触(以下、記の2において「受傷等」という。)の後、当該受傷等の部位に洗浄、消毒等の処置が行われた場合には、当該処置は、業務上の負傷に対する治療として取り扱われるものであり、当然、療養の範囲に含まれるものである。
  2. 受傷等の後に行われたHIV抗体検査等の検査(受傷等の直後に行われる検査を含む。)については、前記1の(3)のイの(ロ)のbと同様に取り扱う。
  3. 受傷等の後HIV感染の有無が確認されるまでの間に行われた抗HIV薬の投与は、受傷等に起因して体内に侵入したHIVの増殖を抑制し、感染を防ぐ効果があることから、感染の危険に対し有効であると認められる場合には、療養の範囲として取り扱う。
資料XVI-3 医療従事者PEPフローチャート(救急科、夜間当直者用)
当院職員
□ HIV患者由来の体液曝露(針刺し、粘膜曝露)である事を確認。
□ 事故概要、PEP開始について診療録に記載。
□ 抗HIV薬を院内処方する。
デシコビ®配合錠HT1錠1日1回 +アイセントレス®400mg 1日2回など
(平日、感染症科外来日までの日数分)
他院職員
□ HIV患者由来の体液曝露(針刺し、粘膜曝露)である事を確認。
□ 事故概要、PEP開始について診療録に記載。
□ 抗HIV薬を院内処方する。
デシコビ®配合錠HT1錠1日1回 +アイセントレス®400mg 1日2回など
(平日感染症科外来日までの日数分)
□ 全額自費。会計窓口で「労災」である旨を伝えるよう説明。

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