抗HIV治療ガイドライン(2024年3月発行)

XV小児、青少年期における抗HIV療法

7.変更する治療薬の内容

 治療が失敗した場合には、アドヒアランスの不良、体内の治療薬濃度が適切な値に達していない、使用している薬がウイルスを抑えられなくなっている(薬剤耐性ウイルスの出現)などの原因が考えられ、何が原因なのかをまず検討することが重要である。アドヒアランスの不良は、治療がうまくいかない場合に第一に検討すべき事項であり、最も多い原因でもある。薬の服用歴を詳細に検討し、剤形や内服タイミングが現在の児に合っているか見直しを行う。それ以外に小児の服薬アドヒアランスに影響しやすい家庭環境の社会心理的な分析が必要となることもある。場合によっては、DOT(directly observed therapy)を行って評価し直してみることも考慮される。また、小児では薬の体内レベルの個人差が大きいことも一因となり得るので、可能ならば、薬剤の血中濃度をモニターすること(TDM)も考慮したい。

 副作用や服薬不良が原因で治療薬を変更する際には、異なる副作用の薬剤を選ぶ。

 服薬が良好であるにもかかわらず治療効果が十分でないときは、効果が不十分な原因と今までに使われた薬の種類を検討し、薬剤耐性検査を行ったうえで、新たな治療薬を選択することになる。新たな処方も、できるかぎり有効な薬剤を併用することで、ウイルス量をしっかり抑えるようにすべきである。ウイルス量を十分に低下させる治療が困難なときは、将来の薬剤選択肢を残すことを考えながら(VII章で解説したように、1剤のみが有効なレジメンではその薬剤に対する耐性を容易に誘導して、将来の治療選択肢を狭めることになる)、免疫学的・臨床的状態を維持できそうな治療を続けることがある。その際には、ウイルス量が抑えられている患児以上に頻回の状態観察が必要となるし、可能な限り早期にウイルス量をしっかり抑えられる治療に持っていけるよう意識しておくべきである。(場合によっては、小児での使用が承認されていない薬剤の使用を検討することもあり得るが、その際にはHIV感染症の専門家とよく相談する必要がある。)多剤耐性により治療が困難となり、臨床的な病期も進行している場合には、患児のQOLも考慮して治療内容を話し合うことも必要となる。

 治療薬を変更する際には、再度、保護者も含めて処方内容の遵守についてよく話し合う必要がある。また、変更後も頻回に服薬状況を確認する必要がある。

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