XV小児、青少年期における抗HIV療法
本章は小児、青少年期における抗HIV療法について記述している。母子感染予防に関しては「HIV感染者の妊娠・出産・予後に関する疫学的・コホート的調査研究と情報の普及啓発法の開発ならびに診療体制の整備と均てん化に関する研究」班発行の「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」(http://hivboshi.org/manual/guideline/2021_guideline.pdf)および「HIV母子感染予防対策マニュアル」第9版(http://hivboshi.org/manual/manual/manual9.pdf)を参照されたい。
要約
- 新生児・乳児のHIV感染スクリーニングは生後12〜18ヵ月までは母親からの移行抗体の影響を受けるので、核酸増幅法(NAT)を用い、連続して2回NAT陽性であれば感染と確定する。
- 小児のCD4数の正常値は年齢によって異なるので、米国疾病管理予防センター(CDC)が2014年に改訂した年齢別CD4数によるHIV感染症の免疫学的ステージを参照する。
- 年齢や診断時のCD4数に関わらず、HIV感染症と診断された小児は直ちに治療を開始する。
- 小児HIV感染症においても、抗HIV薬を3剤併用してウイルス量をしっかり抑え込む治療が基本である。治療開始に当たっては、genotypeによる薬剤耐性試験を行い、小児が服用可能な剤形かどうか、アドヒアランスが維持できるかどうかを、保護者も含めてよく検討しておくことが大切となる。
小児がHIVに感染する経路は、主として周産期の母子感染である。幸い現在までのわが国における母子感染例はきわめて少ないため、わが国での小児HIV感染症の臨床研究は困難であるので、本ガイドラインは原則的に米国保健福祉省の最新ガイドライン(US-DHHS 2024)1)に準拠し、また欧州のPENTA2)やEACS guideline20233)も参考にして作成した。
1.小児の抗HIV治療において考慮すべき重要項目
小児においてもHIV感染の病態は成人と同様であり、抗HIV治療に際してもウイルス学的・免疫学的な原則は成人と同様と考えてよい。しかし、以下にあげるような、小児に特有ないくつかの点を考慮しておかねばならない。
- 小児の感染の大部分は周産期に起きる。妊娠女性がHIVに感染しているか否かを早期に発見することが、母子感染をできる限り予防するためにも、感染小児に対する治療を適切に開始するためにも重要である。
- 周産期感染児の多くは、子宮内や出産時/後にAZT(ZDV)等の抗ウイルス薬への曝露を受けている。
- 周産期の感染は免疫系の発達過程において起こるので、免疫・ウイルスマーカーの動きや臨床症状が成人とは異なる部分がある。また、小児のHIV感染症では、発育への影響や神経系の異常にも注意を払う必要がある。
- 新生児期から思春期にかけては、成長に応じて薬の体内動態(分布・代謝・排泄)に変化が生じるので、薬の用量や毒性を個々に評価する必要がある。
- 投薬の際には、治療薬の剤形が小児に適切かどうかも考慮する必要がある。
- アドヒアランスの維持には、保護者も含めて十分な教育が必要となる。また、小児の精神的成長がアドヒアランスの変動に影響しやすいことにも注意を要する。