III抗HIV治療の基礎知識
2.HIV感染症の病状を把握するためのパラメーター
(1)CD4陽性Tリンパ球数
CD4数は、HIV感染症により障害をうけた患者の免疫力を反映する重要な指標となる。健常者のCD4数は500〜1,000/μLで、感染者において200/μL未満となると日和見疾患のリスクが高まる。測定ごとの変動が大きいので、複数回(通常は2〜3回)の検査での判定が必要となる。有効なARTによりCD4数が正常値まで回復した場合でも数ヵ月の休薬が生じた場合にはCD4数は再び低値となるため、治療の継続が必須である。
(2)血中HIV RNA量
わが国では血中HIV RNA量の測定は2008年以降、一般的にリアルタイムPCR法(TaqMan PCR法)が用いられており、主要な外注検査会社で実施することができる。2011年9月からは、プライマーやDNAプローブのミスマッチなどが原因で生じる低反応性を解決するためにコバスTaqMan HIV-1「オート」v2.0法への移行が開始された。従来のv1.0はgag領域のみに対するプライマーやDNAプローブを使用していたが、v2.0はgagに加えLTR領域内も標的配列としており、検出感度も20コピー/mLへと改良されている。
血中HIV RNA量が検出限界以下となっても、体内からウイルスが消失したことにはならない。中断すればHIVは再増殖し治療前の状態に戻ってしまう。測定ごとのばらつきの大きな検査で3倍(0.5 log)以下の違いは有意な変化と考えないので、複数回の検査で判断する必要がある。なお、治療後に血中HIV RNA量をどの程度まで低下させればよいのか、薬剤耐性ウイルスの出現を抑制できる血中HIV RNA量の閾値はいくつか、などについてはまだ明確な結論が出ていない。血中HIV RNA量が200コピー/mLを超える状態が続くと薬剤耐性ウイルスが生じやすくなるという報告8-10)などから、DHHSガイドラインではウイルス学的失敗(virologic failure)を「血中HIV RNA量が200コピー/mL未満を維持できない状態」と定義している11)。
抗HIV療法を行なう際には、血中HIV RNA量が治療効果判定のための最も重要な指標となる。また、血中HIV RNA量はHIV感染症の進行の早さ、すなわちCD4数の減少速度とある程度の相関傾向があることがわかっているが、この相関には患者ごとのばらつきが非常に大きいことに注意が必要である。図III-2は、無治療のHIV感染者を血中HIV RNA量ごとにグループ分けし、CD4数の年間減少速度の分布を比較したものである2)。平均値(グラフ中のΔCD4)で比較すると血中HIV RNA量が多いグループで減少が速い傾向があるのは確かであるが、患者ごとのばらつきがきわめて大きいことがわかる。例えば、血中HIV RNA量が500コピー/mL未満のグループではCD4陽性Tリンパ球の減少がほとんど見られない患者がいる一方で、年間100/μL以上減少する患者もいる。未治療患者における血中HIV RNA量はあくまでもHIV感染症の進行の速さを予測するための因子の一つにすぎず、定期的にCD4数を測定して個々の症例ごとに評価をすることが重要である。