抗HIV治療ガイドライン(2024年3月発行)

XI結核合併症例での抗HIV療法

5.ARTの開始時期

 結核の診断がついたときに、すでに以前よりARTを行っている患者では、ARTがウイルス学的に有効であれば抗HIV薬はそのまま継続し、結核の治療を開始する。ただし、ARTの内容により、リファマイシン系薬との相互作用に注意する。ARTがウイルス学的に有効でなければ中止し、結核の治療を優先する。

 結核の診断がついた時点で抗HIV薬の投与を行っていない症例については、結核の治療を優先する。結核の治療を失敗した場合、死に至る可能性があるためだけでなく、周囲への二次感染を引き起こし、多剤耐性結核菌の出現をもたらす可能性があるからである。

 結核の治療開始後に新たにARTを開始する場合は、【3.HIV感染症合併結核の治療上の問題点】で示した3点についての配慮が必要であり、いつからARTを開始すべきか悩む症例が多い。

 2011年10月にARTの開始時期について3つの論文(randomized controlled trial)16-18)が発表され、それらの結果を受けてDHHSは以下のようなART開始時期についての指針を出している10)

  • (1)CD4数<50/μL:結核治療開始後2週間以内にARTを開始する(AI)。
  • (2)CD4数≧50/μL:結核治療開始後8週間以内にARTを開始する(AIII)。

 しかし、CD4数<50/μLではIRISを高率に合併する。結核性髄膜炎、結核性心膜炎、呼吸不全を呈する肺結核などの重症結核ではIRISを起こした場合、致命的になる可能性が高いので、ARTの早期開始は慎重に検討すべきである19)。早期開始群では副作用によりARTの薬剤変更を行った例が有意に多かったという指摘もあり18)、結核薬4剤、ART3剤、日和見感染症予防薬等の多剤を服薬せざるを得ない状況ではやはり副作用には注意が必要である。多剤耐性結核菌や耐性HIVの場合は、薬剤の選択がさらに複雑になり、慎重な判断が求められる。ARTの開始時期については上記基準を一律に当てはめることはせずに、症例ごとにベネフィットとリスクを検討すべきである。

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