IX抗HIV薬の副作用
3.腎障害
TDFでは尿細管障害が問題となり、Fanconi症候群や腎性尿崩症の報告もある。リスク因子には、血清クレアチニン高値、腎毒性のある薬剤の使用、低体重、高齢、CD4陽性リンパ球数(以下、CD4数)低値および糖尿病などが報告されている36, 37)。また一部の報告では、PIと組み合わせて使用した場合に腎機能障害のリスクが高くなることが示唆されている38, 39)。TDFの腎障害を観察する指標としては、血清クレアチニンやリン酸塩、尿糖、尿蛋白に加え、尿中のβ2ミクログロブリンの有用性があげられている40, 41)。テノホビル(TFV)のプロドラッグであるTAFを含む配合剤が2016年以降本邦で承認された(EVG/cobi/TAF/FTC、TAF/FTC、RPV/TAF/FTC、BIC/TAF/FTC、DRV/cobi/TAF/FTC)。TAFは、TDFと比較して血漿中での安定性が高く、HIV標的細胞内に移行したあとにTFVに代謝され抗HIV効果を発揮する42)。そのため、抗HIV効果はTDF同様に維持しつつ、血漿中TFV濃度を低く保てることから、TDFで問題となっていた尿細管障害や骨密度低下を軽減できる可能性がある。第Ⅲ相臨床試験では、TDFを含有するレジメンからの切り替えにおいて、β2ミクログロブリンやレチノール結合蛋白といった尿細管マーカーの改善が示された43, 44)。腎機能低下例(eGFR 30〜69mL/min)を対象にした臨床試験においても、同様の傾向が認められている45)。また、ART未経験者においてもTDFを含有するレジメンと比較して、上記マーカーの変化が軽微であることや血清クレアチニン値の上昇が小さいことが示された46, 47)。日本人においてもTDFからTAFへの切り替えにおいて腎機能マーカーの改善が報告されている48, 49)。一方、累積的なTDF使用は近位尿細管障害との関連性が強く、2年以上TDFを使用した場合、TDFの中止後もTDF関連の近位尿細管障害が持続する可能性があることが報告されている50)。なお、DHHSガイドラインでは、TDFからTAFへの切り替えが、尿蛋白や腎のバイオマーカーの改善に関連するものの、近位尿細管障害を含む腎疾患の既往がある患者への長期的な影響は明らかではないため、注意深いモニタリングが推奨されると記載されている51)。EACSガイドラインには、TDFからnon-tenofovir drugまたはTAFに切り替えるべき具体的な指標として、eGFR≦60mL/min、UP/C(尿蛋白/クレアチニン比)>50mg/mmol、腎毒性のある薬剤との併用、TDF毒性の既往(近位尿細管障害)をあげている52)。TDFやTAFが継続使用できない場合にはABCに変更、もしくはNRTI-sparingレジメンやDTG/3TCも考慮できる。ABC/3TCを含むARTにてコントロール良好な患者においてTAF/FTC変更群とABC/3TC継続群でその後のeGFRに差がなかったことが報告されている53)。HIV腎症などで腎機能障害がすでに指摘されている場合、合併疾患にて腎毒性のある他の薬剤を使用している場合、あるいは糖尿病などで腎障害の進行が予想されるような場合には、TDFの投与を避けるほうがよく、やむをえず投与する際にはより注意深く経過観察をすべきである。
また、長期的な治療に伴う慢性期合併症の一つとして、HIV感染者のCKDが問題視される。日本人のHIV感染者におけるCKD有病率は12.9〜15.4%と一般人に比べ高いことが報告された54, 55)。また、HIV感染者におけるCKD関連因子としては、一般的に言われている加齢、糖尿病、高血圧以外にもCD4数低値や血中HIV RNA量高値、TDFやLPV/rtvの使用などが報告されている56, 57)。また、欧米人に比べ体格の小さい日本人では、TDF長期使用による経時的な腎機能の低下も確認されている58)。CKDを合併しているHIV感染者においては、様々なリスクを念頭においた上で長期予後改善を得ることが重要となる。また、腎機能低下により、使用中止もしく投与量の調整が必要な抗HIV薬(3TC、FTC、TDF、TAFを含む薬剤)があるため、添付文書を確認する必要がある。
cobi、rtv、RPV、DTG、BICは、トランスポーターを阻害することにより尿細管からのクレアチニン分泌を抑制するため、投与直後に血清クレアチニンの上昇とクレアチニンクリアランスの低下が認められることがある。実際cobiおよびDTGでは真の糸球体濾過率(actual GFR: aGFR)に変化を与えないことが確認されている59, 60)。シスタチンCは阻害因子の影響を受けないため、これらの薬剤を使用する際の腎機能のモニタリングに有用である61)。