XIIIHIV/HCV共感染者での抗HIV療法
要約
HCV単独感染症の治療は“DAA併用療法”が標準療法として定着した。HIV合併例に関してもHCV単独感染例同様高い治療効果が得られることが明らかにされている。HCV排除後の長期予後、再感染の予防が重要になっている。
1.疫学
HIV感染症は非経口的に感染する。中でも性交渉による感染が多い。これに対してHCVは性交渉での感染は起こりにくい。従ってこの二つの合併が起こるのはHIV、HCVに汚染された血液製剤(輸血を含む)を使用した場合が多い。他に、静注薬物使用者、MSM(men who have sex with men)においても重複感染を起こしうる1)。特に静注薬物を使用するMSMでは使用歴のないMSMに比べてHCVの感染率が高い2)。MSMでのHCV感染はHIV陽性者に多いことが知られているが、HIV陽性者では直腸粘膜のラングハンス細胞がHCVに感染し、次いで肝臓への感染を起こす可能性が報告されている3)。
HIV陰性MSMを対象としたコホート研究がヨーロッパで行われ、対象350人中14人(100人年あたり2.3人)がHCVに感染しているという高い値が示された4)。この研究の対象はPrEP(pre exposure prophylaxis; 曝露前予防)を受けている人であり、コンドームなしの性交渉が高い感染率につながっていると考えられる。HIV陽性・陰性両方を含むHCV感染MSMを対象にした別のコホート研究によれば、Chemsex、粘膜損傷を伴う性行為によりHIV陽性者から陰性者への伝播が起きることが示唆されている5)。これはHIV/HCV共感染者を対象に行われたMolecular Network解析が示した、“多数のパートナーを有するMSM・静注薬物使用者”がHCV感染の起点となっていること6)、MSMにおけるHCV感染は、ハイリスクの性交渉が大きな要因と考えられること7)とも合致する成績である。血清HCV RNAが105 IU/mL以上の重複感染者の85%で精液中のHCV RNAが陽性で性交渉後の腸液中HCV RNAが陽性である8)。日本においてもMSMにおけるC型肝炎が問題になっているが9)、多数のパートナーを持つ重複感染者が起点となっている可能性が報告された10)。2020年の報告によればHPTN-078試験にリクルートされたMSMのうち、HIV感染者の20%、非感染者の17%がHCV抗体陽性であり、HCVの感染率に関しては今後も注意が必要である11)。
2006年に厚生労働省の研究班が行った全国調査によれば4877人のHIV感染者のうち930名(19.2%)がHCV抗体陽性でそのうち780名(83.9%)がHCV RNA陽性であった。血液製剤による感染者でのHCV抗体陽性率は96.9%、MSMでのHCV抗体陽性率は4.2%、静注薬物使用者では45%であった12)。これはいずれも一般人口におけるHCV感染率(1%弱と推定される)に比べて高率である13)。血液凝固異常の患者におけるHIV感染症の合併の実態に関しては別の研究班でもまとめられており、HIV感染例の98%がHCVに合併感染していると報告されている14)。
本邦からも重複感染症の疫学に関するコホート研究、データベース研究が発表された。HIV感染者におけるHCV感染率は2010年時点で4%であった15)。HCVの感染はHIVに遅れて発見されることが多く、他の性感染症の罹患、静注薬物使用、東京に住んでいることなどが危険因子であった16)。
C型肝炎はウイルス表面のエンベロープ領域が多様性に富むため、急性肝炎の治癒後に中和抗体ができてもウイルスの再感染を防げないことが多い。欧米では静注薬物使用者やMSMにおける再感染が問題となっている17-20)。DAA併用療法後の再感染も最近の話題であり、sofosbuvirを含んだDAA併用療法を受けた3004人中7人が再感染、5人が再燃したと報告された21)。