XIV急性HIV感染症とその治療
2.臨床経過
HIVに初感染してから、通常1〜6週間(ピークは3週間)の潜伏期の後に、40%〜90%の感染者は、表XIV-1に示すような非特異的な急性感染徴候を呈する6)。伝染性単核球症やインフルエンザなどと症状や一般検査所見から区別することは困難であるが、他の性感染症(梅毒、淋病、コンジローマなど)の既往歴やリスクの高い性交渉(同性間性交、HIV流行地での性行為など)、静注薬物使用などは、HIV感染症を疑うポイントとして重要である。
急性HIV感染症が疑われる場合、HIV-1抗原(p24)とHIV-1/HIV-2抗体(IgG/IgM)の同時測定系(第4世代試薬)を用いたHIVスクリーニング検査を実施する2)。本法はHIV感染成立後最短15日〜17日間で検出可能であり7)、RT-PCR法による血中HIV-1 RNA検査のウィンドウピリオド(10〜12日間)とさほど変わらない。HIV-1/HIV-2抗体(IgG/IgM)測定系(第3世代試薬)しか利用できない場合は、ウィンドウピリオドが約1週間程度延長する。HIVスクリーニング検査では約0.1〜0.3%で偽陽性反応がみられることがあるため、確定診断のためには、イムノクロマトグラフィー(IC)法による新規のHIV-1/2抗体確認検査(GeeniusTM HIV 1/2キット)、およびRT-PCR法によるHIV-1 RNA検出などの確認検査が必要である8)。急性感染徴候を呈する時期の血中HIV RNA量は通常105〜108コピー/mLと著明に増加していることが多い。急性期におけるHIV RNA量のバーストは、通常、感染後2ヶ月頃までには収まってくる2)。抗体陰性(もしくは判定保留)で比較的低量のHIV RNAが検出された場合には、4〜6週間後に抗体検査を再検し、抗体が陽転していることを確認する。その時点で再度陰性(もしくは判定保留)であったとしても、3ヵ月以降には抗体が陽転していることを確認する(AI)。IC法による新規のHIV-1/2抗体確認検査法は、従来のWB法と比べ感度、特異度共に高く、ウィンドウピリオドも短くなっている9)。
感染初期に血中のCD4数およびCD8数は共に減少するが、数週間後には両者ともに増加してくる。ただし、CD8細胞の増加率の方が大きいためCD4/CD8比は逆転する6)。
HIVの増殖をコントロールするための重要な因子は、HIVに対するCTL(細胞障害性Tリンパ球)活性である。CTLにより体内のHIV量が減少するが、この間にHIVはすでに中枢神経系やリンパ組織に広範に播種しており、特に消化管のリンパ組織はHIVの増殖および潜伏部位(reservoir)としての役割を果たす。通常感染後6ヵ月前後に血中HIV RNA量がほぼ一定となり、これを“セットポイント”と呼ぶ10)。この“セットポイント”における血中HIV RNA量がその後の患者の予後に関連する。
表XIV-1 急性HIV感染症の主要な臨床症状
頻度(%) | |
---|---|
発熱 | 96 |
リンパ節腫脹 | 74 |
咽頭炎 | 70 |
発疹 | 70 |
筋肉痛・関節痛 | 54 |
血小板減少 | 45 |
白血球減少 | 38 |
下痢 | 32 |
頭痛 | 32 |
嘔気・嘔吐 | 27 |
トランスアミナーゼ上昇 | 21 |
肝脾腫 | 14 |
口腔カンジダ | 12 |
神経障害 | 6 |
脳症 | 6 |