抗HIV治療ガイドライン(2024年3月発行)

VII治療失敗時の薬剤変更

4.薬剤耐性症例に対するSalvage療法

 薬剤耐性症例に対する治療変更に際しては、感受性が保たれた抗HIV薬を少なくとも2剤、できれば3剤併用し、このうち1剤は耐性バリアの高い薬剤(ブーストしたDRV、あるいはDTG・BIC)とすることが望ましい。NNRTIと2剤のNRTIによる初回治療に失敗した症例を対象とするサルベージ試験20)では、87%の症例がNRTIとNNRTIに対する耐性を保有していたが、NTRIのうち少なくとも1剤の感受性は残っており、DTGとNRTI 2剤の組み合わせはLPV/rtvとNRTI 2剤の組み合わせより高い有効性・安全性を示した。NNRTIとTDFを含む2剤のNRTIによる初回治療に失敗した症例を対象とする別のサルベーシ試験21)では、NRTIの感受性が残っていない症例も組み込まれており、DTGはDRVに対して非劣性であったが優越性は示されなかった。DRVよりDTGで耐性獲得が多く(96週でDTGは235例中9例、DRVは229例中0例)、TDF+3TCを維持する方がAZT+3TCに変更するより96週での治療成功率が高かった。

 多剤併⽤抗HIV療法の臨床導⼊以前に単剤投与による治療歴がある症例や、度重なる治療失敗歴を有する症例には、新規薬剤による治療が必要となる場合がある。特に、既存の抗HIV薬に対し多剤耐性を獲得したHIVに対しては、新薬を取り⼊れたSalvage療法が唯⼀の選択肢となりうる。

 2023年8月、カプシド阻害剤として初の薬剤であるレナカパビル(LEN)が「多剤耐性HIV-1感染症」を効能又は効果として承認された。LENは「過去の治療において、LENを含まない既存の抗レトロウイルス療法による適切な治療を行なってもウイルス学的抑制が得られなかった患者」かつ「薬剤耐性検査を実施し、LENを含まない複数の抗HIV薬に耐性を示す患者」が対象の長期作用型抗HIV薬である。多剤耐性HIV-1に感染し400コピー/mL以上のウイルス血症がみられている72例を対象とした第II/III相臨床試験22)では、LENあるいはプラセボと最適バックグラウンドレジメン(Optimized Background Regimen, OBR)を併用したところ、52週時点でHIV-1 RNA量が50コピー/mL未満である患者の割合は78%であり、OBRの中の完全に有効な薬剤の数に関わらず類似した効果が認められた23)

 新規薬剤を用いたSalvage療法においても複数の有効な薬剤を組み合わせることが肝要で、有効な薬剤を⼀剤だけ追加した治療を⾏ってしまうと、追加した薬剤に対する耐性の出現を招いて治療の選択肢を狭める結果となりかねないことに注意を要する。前述のLENのサルベージ試験では、52週までに31%(22/72)の参加者がウイルス学的失敗の基準に合致し、そのうち9例ではLEN関連カプシド耐性変異が認められているが、うち4例ではOBRの中に有効な薬剤がなく、他の5例ではOBRの内服アドヒアランス不良が示唆され、好ましくない機能的単剤治療となっていた23, 24)

 感受性を維持している抗HIV薬の選択肢がほとんどない多剤耐性症例においては、専⾨医療機関に相談することが望ましい。LENの添付文書(第1版)およびインタビューフォーム(第3版)には、「本剤による治療は、抗HIV療法に十分な経験を持つ医師のもとで開始すること」「本製剤の投与開始に当たっては、直近の薬剤耐性検査の実施年月日及び薬剤耐性が認められた全ての抗HIV薬の品名を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。」と記載されている。

 LENを併用したサルベージ療法を行っても十分な抗ウイルス効果が得られない場合には、カプシド領域の薬剤耐性検査を考慮する。外注検査25)および日本医療研究開発機構 エイズ対策実用化研究事業「国内流行HIV及びその薬剤耐性株の長期的動向把握に関する研究」班26)に依頼することが可能である。

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