XVI医療従事者におけるHIVの曝露対策
3.血液・体液曝露時の直後の対応
HIVの血液・体液曝露後の適切な対応についての詳細な検討は、その性質上、現在まで非常に少ない。しかしながら後述のように、欧米のガイドラインに基づいた対応により、曝露後の感染成立をほぼ完全に予防しうる可能性が、現在まで蓄積された経験によって示されてきていると言える。曝露後の対応については米国CDCが中心となり1996年に初回のガイドラインが作成され、2013年に4度目の改訂版が出されてきた7)が、現時点ですでに10年以上も全く改定が行われていない。本ガイドラインでは、原則として米国CDCのガイドラインを参考としつつ、抗HIV薬の進歩と理論的に期待できる有効性に基づいて推奨を行うものとする。
曝露後の最初の対応は局所洗浄である。血液または体液に曝露された創部または皮膚は石鹸と流水によって十分に洗浄する。ポビドンヨードや消毒用エタノールを使用してもよいが、その効果は確立されていない。粘膜は流水で十分に洗浄すべきである。口腔粘膜の汚染ではポビドンヨード含嗽水によるうがいを追加してもよい。
曝露事象で感染の可能性が高いのは、AIDS、血中HIV RNA量1,500コピー/mL以上、針(器具)が中空(針)、血液・体液が肉眼的に見える、血管内に刺入された後の器具(針)、深い傷の場合があげられる。Cochrane reviewにおいては、感染リスクとして①深い傷(オッズ比15)、②器具に目に見える血液付着(オッズ比6.2)、③AIDS末期(オッズ比5.6)、④血管内に挿入した後の器具(オッズ比4.3)が示されている9)。
曝露源患者のHIVに関する状態が不明な場合には、事情を説明して同意を得た上で、HIVスクリーニング検査(可能であれば迅速検査)を実施する。曝露源のHIV statusが不明でPEPをすでに開始した場合でも、曝露源のHIVスクリーニング検査を実施する事が望ましい。陰性が確認できれば被曝露者のPEPを中止可能である上に、陽性である場合にはその後に適切な治療を行う事により、曝露源の患者の救命につながる検査となる。検査実施に際しては、「本人からの同意を取る」のが原則であるが、意識不明等の状態で本人から同意を得ることが出来ない状況下では、医師の判断により検査を実施する事が認められている10)(資料XVI-1)。
同意が得られないなど、各種の事情で検査が実施出来ない場合には、曝露源の病態や疫学状況からHIV感染リスクを評価した上で個別に予防内服適応を判断する。
曝露源のHIV検査については、通常はHIVスクリーニング検査(Ag/Ab)で十分である。
注:職業的曝露においては、HIVのみでなくHBVやHCVの感染リスクも考慮し、併せて曝露後対応を行う必要がある。HBV、HCV対応はHIVと比較して対応には時間的猶予があるため、消化器科医師と相談しながら曝露後対応が可能である。HBV、HCV曝露後の具体的対応については本稿では割愛する。