X免疫再構築症候群
3.免疫再構築症候群の疫学
Müllerら17)は54のコホート研究をメタ解析した結果、抗HIV治療を開始した患者13,103名中1,699名(13.0%)に免疫再構築症候群を発症したと報告している。免疫再構築症候群の疾患別の発症率も解析しており、表X-5に示す通りである。Seretiら18)はCD4数が100/μL未満のHIV感染者における免疫再構築症候群の発症率を米国、タイ、ケニアの3か国で前方視的に調査した。全体では506名中97名(19.2%)で免疫再構築症候群を発症し、3か国の発症率に差はなかったが発症疾患には違いがあったと報告している。
わが国では、1997〜2003年、2007〜2011年および2012〜2016年に抗HIV治療を受けた症例における免疫再構築症候群の発症率に関する調査が行われ、それぞれ8.7%、7.6%、7.1%と徐々に発症率の低下傾向がみられている19)(表X-6)。2012〜2016年に抗HIV治療を受けた症例での発症率は施設によって1.9〜18.4%と差があり(図X-1)、診療している症例背景の違いなどが影響する可能性がある。例えば、日和見感染症を起こした症例に限って免疫再構築症候群の発症率をみると、2〜63%と高率になる17, 20-26)。また、抗HIV治療を受けた症例全体における免疫再構築症候群の発症率には国によって差があり(表X-7)9, 27, 28)、わが国の発症率は先進国と近いものである。
わが国で頻度の高い免疫再構築症候群としての疾患は、帯状疱疹、非結核性抗酸菌症、サイトメガロウイルス感染症、ニューモシスチス肺炎、結核症、カポジ肉腫などであり、最近ではB型肝炎や進行性多巣性白質脳症が増加傾向を示している(図X-2)。
表X-5 免疫再構築症候群の発症率に関するメタ解析結果
IRISの種類 | 発症率 | 観察症例数 | IRIS発症率(95%CrI*) |
---|---|---|---|
結核症 | 2~43% | 17~1731例 | 15.7%(9.7-24.5) |
クリプトコックス髄膜炎 | 2~50% | 10~412例 | 19.5%(6.7-44.8) |
サイトメガロウイルス網膜炎 | 18~63% | 10~43例 | 37.7%(26.6-49.4) |
帯状疱疹 | 12% | 115例 | 12.2%(6.8-19.6) |
カポジ肉腫 | 7% | 29~150例 | 6.4%(1.2-24.7) |
進行性多巣性白質脳症 | 8~23% | 12~53例 | 16.7%(2.3-50.7) |
何らかのIRIS | 4~39% | 23~2330例 | 16.1%(11.1-22.9) |
表X-6 わが国における免疫再構築症候群の発症率
1997~2003年調査 (安岡班) |
2007~2011年調査 (照屋班) |
2012~2016年調査 (照屋班) |
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調査施設数 | 8施設 | 12施設 | 15施設 |
ART症例数 | 2,018件 | 3,216件 | 3,866件 |
IRIS症例数 | 176件 | 246件 | 276件 |
IRIS発症率 | 8.7% (2.0~15.4) |
7.6% (0~21.3) |
7.1% (1.9~18.4) |
図X-1 施設別にみた免疫再構築症候群の発症率
表X-7 各国での免疫再構築症候群の発症率
調査国 | 調査期間 | 調査患者数 | 発症率 | 備考 |
---|---|---|---|---|
アメリカ | 1996-2008年 | 196名 | 11% | paradoxical IRISのみ |
アメリカ | 1996-2007年 | 2,610名 | 10.6% | unmasking IRISのみ |
スペイン | 1998-2014年 | 611名 | 8% | 自国生まれ(5%)<移民(18%) |
インド | 2000-2005年 | 97名 | 35.1% | 前向き調査 |
インド | 2012-2014年 | 599名 | 31.4% | IRIS死亡率が1.3% |
メキシコ | 2001-2007年 | 390名 | 27% | unmasking IRISが81% |
モザンビーク | 2006-2008年 | 136名 | 26.5% | unmasking IRISが69.4% |
南アフリカ | 2006-2007年 | 498名 | 22.9% | unmasking IRISが64% |