抗HIV治療ガイドライン(2024年3月発行)

VIウイルス学的抑制が長期に
安定して得られている患者での薬剤変更

要約

  • 薬剤変更の原則は、将来の治療の選択肢を狭めることなくウイルス抑制を維持しながらクオリティオブライフの向上をもたらすことである。薬剤変更による利益が不利益を上回る時に、薬剤変更が推奨される。
  • ウイルス学的抑制が長期に安定して得られている患者とは、変更前6ヵ月間以上においてウイルス学的抑制(血中HIV RNA量が50コピー/mL未満)が得られている患者である。
  • 変更の理由として、1日の服用回数や内服する錠剤数を減らすことによる利便性の向上、食事の条件の排除、毒性の軽減や副作用の回避、薬物相互作用の予防もしくは回避などがあげられる。持効性注射剤への変更については、利便性の向上や飲み忘れがないことに対する安心感に加え、毎日の服薬に関連するスティグマやプライバシーなども変更理由としてあげられる。
  • 変更前には、過去に投与した抗HIV薬の薬歴、血中HIV RNA量の推移や抗ウイルス効果の評価、過去のすべての薬剤耐性検査結果、過去の抗HIV薬の副作用などを十分に評価する(AI)。特に、ウイルス学的治療失敗歴の有無と新たに処方を考えている抗HIV薬に対する耐性関連変異の有無について注意する。
  • 薬剤耐性変異の獲得がある症例や、ウイルス学的治療失敗歴があり薬剤耐性獲得の可能性がある症例を除外すると、初回抗HIV治療として推奨されている3剤もしくは2剤療法への変更については変更後のウイルス学的治療失敗の危険性は極めて少ない(AI-III)。持効性注射剤による治療(AI)やその他の推奨される組み合わせに含まれていない2剤療法(BI-CIII)への変更は、適切な症例を選択すれば治療変更の選択肢として十分考慮できる。

1.治療の変更の目的とその意義

 抗HIV治療の進歩に伴い、国内の多くのHIV感染者ではウイルス学的抑制を維持できるようになった。日本で抗HIV治療をうけている人の90%以上はウイルス学的抑制を達成している1, 2)。長期療養を考慮すると、ウイルス学的抑制のみでは不十分であり、副作用の軽減や内服の利便性の改善などによるクオリティオブライフ(QOL)の向上にも注意を払う3)。持効性注射剤の登場や抗HIV薬の薬剤変更に関する第III相臨床試験のエビデンスの蓄積などもあり、薬剤変更による利益が不利益を上回る時は薬剤変更が推奨されるようになった。薬剤変更には種々の理由が存在するが、切り替えの原則は、将来の治療の選択肢を狭めることなくウイルス抑制を維持しながらQOLの向上をもたらすことである。治療失敗に伴い薬剤耐性変異が出現すれば、治療はより複雑になる。

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