抗HIV治療ガイドライン(2023年3月発行)

IX抗HIV薬の副作用

5.骨壊死、骨減少症

 骨壊死は、CD4数低値、副腎皮質ホルモン薬使用 68)、脂質異常症、アルコール等 69)がリスク要因と報告されている。ARTとの関連ではTDFの使用68) および初期に承認されたPIとの関連がいわれているものの詳細についてはまだ不明な点が多い。部位については大腿骨頭に発生する頻度が高い。

 骨密度低下は、HIV感染症患者において頻度が高いといわれている。その発現率は患者集団にも大きく影響するが、骨減少症で20〜54%、骨粗鬆症で2〜27%と報告されている70, 71)。一般的には、年齢、性別、人種、低体重、喫煙・飲酒および副腎皮質ホルモン薬の使用などがリスク因子としてあげられるが、HIV感染者に特有の要因としてCD4数低値、HIV感染期間および抗HIV薬との関連についての報告もある72)。HIV感染自体が骨密度を低下させるとの報告もある73)

 骨密度低下を検討したメタ解析によると、抗HIV治療群は未治療群に比べ骨密度低下リスクが2.5倍であった70)。またSMART試験にて、抗HIV治療をCD4数に応じて中断または延期した場合に比べ、治療を継続した場合で骨密度低下との有意な関連性が報告された 74)

 抗HIV薬による骨密度への影響は薬剤により異なる。PI剤ではATVやLPVによって骨芽細胞への分化が抑制されることにより骨密度が低下する 75)NRTIのTDFでは尿細管障害による血清アルカリホスファターゼ上昇、尿中カルシウム排泄の増加および尿細管リン再吸収率低下が認められており76, 77)これらが骨代謝に影響していることが示唆されている。TAFは尿細管障害との関連が軽微であり、骨密度低下についても軽減できる可能性がある。第Ⅲ相臨床試験においては、TDFを含むレジメンからの切り替えにより、腰椎及び大腿骨頸部ともに骨密度の改善が認められた 49, 50)。腎機能低下例(eGFR 30〜69mL/min)を対象にした臨床試験においても、同様の傾向が認められた 51)。また、ART未経験者においてもTDFを含むレジメンと比較して骨密度低下が軽微であることが示された 52, 53)。なお、DHHSガイドラインでは、TAFはTDFより骨密度の低下が少なく、TDFからの切り替えでは骨密度(BMD)の改善がみられるが、骨減少症や骨粗鬆症の既往のある患者への長期的な影響については明らかではないため、注意深いモニタリングが推奨されると記載されている 35)。EACSガイドラインには、TDFからnon-tenofovir drugに切り替えるべき具体的な指標として、骨粗鬆症、進行性の骨減少、病的骨折の既往をあげている 56)

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