抗HIV治療ガイドライン(2023年3月発行)

XVI医療従事者におけるHIVの曝露対策

8.曝露後の抗HIV薬予防内服の効果

 ヒトにおけるHIV曝露後予防の効果を評価した報告は極めて少ない。職業上曝露によるHIV感染成立の頻度は約0.3%と低く、曝露後予防の効果を確認するための統計学的に有意なデータを得るには数千人に及ぶ曝露事例を登録した前向き研究が必要となる。医療従事者の後ろ向き症例対照研究によると、曝露後予防としてAZT(ZDV)を投与すると、HIV感染成立のリスクは81%(95%信頼区間= 43%〜94%)減少したという報告が1997年になされている21)。Cochrane reviewにおいては、曝露後予防としてAZT使用の有用性は示されたが、2剤以上の有用性を示す研究は認められなかった 9)。しかし、曝露後予防に3剤以上の多剤併用療法が実施されるようになってからは、職業上曝露によるHIV感染はほとんど報告されていない。

 ガイドラインに示された曝露後予防対策が徹底されれば、職業上曝露によるHIV罹患リスクは「ほぼゼロ」に出来る可能性が高いと考えられる。米国、イギリスともに職業上曝露によるHIV罹患は2000年以降報告されていない(図XVI-1)13, 22)(米国の2008年の感染事例は研究室内におけるウイルス培養実験中の曝露事故)。1999年以前には4例の3剤併用予防例の曝露後感染事例が報告されているが、4例中3例では曝露源患者が薬剤耐性をもっていたことが分かっている 6)。したがって、予防に使用する抗HIV薬を選択する際には、患者のHIVの薬剤感受性を考慮することが重要である。

図XVI-1 1985年以降の米国CDCでの職業的HIV罹患例(58例)
(2008年の事例は研究室内におけるウイルス培養実験中の曝露事象)
1985年は3例。1986年は5例。1987年は7例。1988年は6例。1989年は4例。1990年は6例。1991年は7例。1992年は8例。1993年は3例。1994年は2例。1995年は4例。1996年、1997年はゼロ。1998年は1例。1999年は2例。2000年から2007年はゼロ。2008年は1例。2009年から2013年はゼロ
MMWR January 9, 2015
(米国CDC homepageでは2019年9月更新時点で新規感染者は報告されていない(https://www.cdc.gov./hiv/workplace/healthcareworkers.html))

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