抗HIV治療ガイドライン(2022年3月発行)

X免疫再構築症候群

3.免疫再構築症候群の疫学

 Müllerら16)は54のコホート研究をメタ解析した結果、抗HIV治療を開始した患者13,103名中1,699名(13.0%)に免疫再構築症候群を発症したと報告している。免疫再構築症候群の疾患別の発症率も解析しており、表X-5に示す通りである。Seretiら17)はCD4数が100/μL未満のHIV感染者における免疫再構築症候群の発症率を米国、タイ、ケニアの3か国で前方視的に調査した。全体では506名中97名(19.2%)で免疫再構築症候群を発症し、3か国の発症率に差はなかったが発症疾患には違いがあったと報告している。

 わが国では、1997~2003年、2007~2011年および2012~2016年に抗HIV治療を受けた症例における免疫再構築症候群の発症率に関する調査が行われ、それぞれ8.7%、7.6%、7.1%と徐々に発症率の低下傾向がみられている18)(表X-6)。2012~2016年に抗HIV治療を受けた症例での発症率は施設によって1.9~18.4%と差があり(図X-1)、診療している症例背景の違いなどが影響する可能性がある。例えば、日和見感染症を起こした症例に限って免疫再構築症候群の発症率をみると、2~63%と高率になる16, 19-25)。また、抗HIV治療を受けた症例全体における免疫再構築症候群の発症率には国によって差があり(表X-7)9, 26, 27)、わが国の発症率は先進国と近いものである。

表X-5 免疫再構築症候群の発症率に関するメタ解析結果
IRISの種類 発症率 観察症例数 IRIS発症率(95%CrI)
結核症 2~43% 17~1731例 15.7%(9.7-24.5)
クリプトコックス髄膜炎 2~50% 10~412例 19.5%(6.7-44.8)
サイトメガロウイルス網膜炎 18~63% 10~43例 37.7%(26.6-49.4)
帯状疱疹 12% 115例 12.2%(6.8-19.6)
カポジ肉腫 7% 29~150例 6.4%(1.2-24.7)
進行性多巣性白質脳症 8~23% 12~53例 16.7%(2.3-50.7)
何らかのIRIS 4~39% 23~2330例 16.1%(11.1-22.9)
表X-6 わが国における免疫再構築症候群の発症率
  1997~2003年調査
(安岡班)
2007~2011年調査
(照屋班)
2012~2016年調査
(照屋班)
調査施設数 8施設 12施設 15施設
ART症例数 2,018件 3,216件 3,866件
IRIS症例数 176件 246件 276件
IRIS発症率 8.7%
(2.0~15.4)
7.6%
(0~21.3)
7.1%
(1.9~18.4)
図X-1 施設別にみた免疫再構築症候群の発症率
施設AからLまでの免疫再構築症候群の発症率を表した横棒グラフ。施設Aは9.5%、ART症例数は906例。施設Bは3.8%、ART症例数は738例。施設Cは8.1%、ART症例数は540例。施設Dは5.3%、ART症例数は396例。施設Eは3.6%、ART症例数は280例。施設Fは9.3%、ART症例数は172例。施設Gは1.9%、ART症例数は160例。施設Hは2.9%、ART症例数は140例。施設Iは14.3%、ART症例数は133例。施設Jは3.8%、ART症例数は132例。施設Kは18.4%、ART症例数は76例。施設Lは9.9%、ART症例数は71例。施設Mは14.3%、ART症例数は56例。施設Nは2.3%、ART症例数は43例。施設Oは8.7%、ART症例数は23例。各施設の平均値は7.1%となり、合計ART症例数は3,866例となった。
表X-7 各国での免疫再構築症候群の発症率
調査国 調査期間 調査患者数 発症率 備考
アメリカ 1996-2008年 196名 11% paradoxical IRISのみ
アメリカ 1996-2007年 2,610名 10.6% unmasking IRISのみ
スペイン 1998-2014年 611名 8% 自国生まれ(5%)<移民(18%)
インド 2000-2005年 97名 35.1% 前向き調査
インド 2012-2014年 599名 31.4% IRIS死亡率が1.3%
メキシコ 2001-2007年 390名 27% unmasking IRISが81%
モザンビーク 2006-2008年 136名 26.5% unmasking IRISが69.4%
南アフリカ 2006-2007年 498名 22.9% unmasking IRISが64%

 わが国で頻度の高い免疫再構築症候群としての疾患は、帯状疱疹、非結核性抗酸菌症、サイトメガロウイルス感染症、ニューモシスチス肺炎、結核症、カポジ肉腫などであり、最近ではB型肝炎や進行性多巣性白質脳症が増加傾向を示している(図X-2)。

図X-2 わが国で免疫再構築症候群としてみられた疾患比率の変化
縦軸が疾病で、横軸が疾患比率の1997〜2003年調査(1)と2007〜2011年調査(2)と2012~2016年調査(3)を比較した3つの横棒グラフ。帯状疱疹は(1)が約26%、(2)が約18%、(3)が約19%。ニューモシスチス肺炎は(1)が約7%、(2)が約15%、(3)が約21%。非結核性抗酸菌症は(1)が約21%、(2)が約12%、(3)が約14%。サイトメガロウイルス感染症は(1)が約20%、(2)が約17%、(3)が約11%。結核は(1)が約6%、(2)が約12%、(3)が約7%。B型肝炎は(1)が約2%、(2)が約5%、(3)が約7%。進行性多巣性白質脳症は(1)が約3%、(2)が約4%、(3)が約6%。カポジ肉腫は(1)が約5%、(2)が約5%、(3)が約6%。自己免疫疾患は(1)が約2%、(2)が約2%、(3)が約4%。クリプトコックス感染症は(1)が約2%、(2)が約4%、(3)が約3%。単純ヘルペスは(1)が約2%、(2)が約0.5%、(3)が約1%。

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