抗HIV治療ガイドライン(2023年3月発行)

IV抗HIV治療の開始時期(成人、慢性期)

2.本ガイドラインが提唱する治療開始時期基準と日本における状況

 上記のこれまでのエビデンスとDHHSのガイドライン1)、EACSガイドライン2)、WHOガイドライン33)を参考にして、表IV-2に本ガイドラインが提唱する抗HIV治療の開始の目安を示す。CD4数に関わらずすべてのHIV感染者に治療開始を推奨する(AI)。

 DHHSのガイドライン1)では、ARTの内服率の向上、ケアへのつながりの向上、ウイルス抑制までの期間の短縮、ウイルス学的抑制を達成するHIV陽性者の比率の向上のために、HIV感染症診断後、即時(もしくは可及的速やかな)治療開始を推奨している(AII)。

 日本においては身体障害者手帳や自立支援医療などの利用に関して一定の条件を満たした上で申請可能となり、HIV陽性の診断から制度の利用が可能となるまでにも1ヶ月以上の期間を要する。長期的な治療の継続のためには制度の取得は必要であり、開始前には十分に検討することを忘れてはならず、注意を促す文章を記した(表IV-2)。

表IV-2 抗HIV薬治療の開始時期の目安

CD4数に関わらず、すべてのHIV感染者に治療開始を推奨する(AI)

注1:

抗HIV療法は健康保険の適応のみでは自己負担は高額であり、医療費助成制度(身体障害者手帳)を利用する場合が多い。主治医は医療費助成制度(身体障害者手帳)の適応を念頭に置き、必要であれば治療開始前にソーシャルワーカー等に相談するなど、十分な準備を行うことが求められる。

注2:
エイズ指標疾患が重篤な場合は、その治療を優先する場合がある。
注3:
免疫再構築症候群が危惧される場合は、エイズ指標疾患の治療を優先させる。

 (参考:HIVによる免疫の機能の障害に係る身体障害認定基準は、厚生労働省HP内(https://www.mhlw.go.jp/www1/shingi/s1216-3.html)からも参照できる。)

 HIV感染症の診断時にAIDSを発症している症例でも抗HIV治療を開始する(AI)。しかしながらニューモシスチス肺炎やクリプトコックス髄膜炎など重篤なエイズ指標疾患を合併する症例では、その治療を優先させる必要がある。急性の日和見感染症合併例についてもできるだけ早期の治療開始が好ましいとする報告もあり34)、この点の判断は専門医の意見を参考にすることが望ましい。免疫再構築症候群については第X章を参照。

 治療開始に際しては、服薬遵守の重要性を教育することや医療費減免のための社会資源の活用方法などについても詳しく説明しておく必要がある。早期の治療開始が推奨されようになった近年はこれらへの配慮が以前にも増して重要となっている。この点に関する情報は、厚生労働行政推進調査事業費補助金 エイズ対策政策研究事業「HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究」班が作成した「HIV診療における外来チーム医療マニュアル」35)、新潟大学医歯学総合病院が作成している「制度のてびき」36)が参考になる。ともにホームページからダウンロード可能であるので参照されたい。

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