抗HIV治療ガイドライン(2023年3月発行)

XVI医療従事者におけるHIVの曝露対策

4.抗HIV薬の予防内服開始について

 2013年の米国CDCガイドラインは、HIV感染のリスクが高い場合には曝露後に抗HIV薬の多剤併用投与を開始し、4週間(28日間)は予防内服を継続することを推奨している6)。HIV曝露後の抗HIV薬内服を実施すべきか否かについては、それぞれの事例について感染成立のリスクを考慮しつつ、専門医と相談の上で最終的には被曝露者が決定する権利を有する。

 現在、HIVを含む血液・体液曝露後の予防内服は労災保険の保険給付として認められるため9)、曝露の記録を文書で残すことが重要である。曝露源患者のHIV感染が確定する前までに行われた予防内服についても労災保険の給付対象となる。ただし、曝露源患者が、検査の結果HIV陰性と判明した場合や、HIVスクリーニング検査拒否などにより曝露源患者のHIV感染状況が不明な場合には、労災保険が適用されない可能性があり、この場合には予防内服に必要な費用負担は「事故が発生した医療機関が負う」事になる。

 曝露事象は時間外に発生する場合も多いため、その場合には救急外来もしくは当直医師により、遅滞なく曝露後予防の抗HIV薬を開始できるような体制づくりが必要である。資料1はそのような場合に、救急科医師、当直医師が緊急対応し、平日日中の感染症外来につなげるためのマニュアルの一案である。これを参考に、各施設に対応可能なマニュアルを作成しておく事が望ましい。

資料1 医療従事者PEPフローチャート(救急科、夜間当直者用)
当院職員
□ HIV患者由来の体液曝露(針刺し、粘膜曝露)である事を確認。
□ 事故概要、PEP開始について診療録に記載。
□ 抗HIV薬を院内処方する。
デシコビ®配合錠HT1錠1日1回 +アイセントレス®400mg 1日2回
(平日、感染症科外来日までの日数分)
他院職員
□ HIV患者由来の体液曝露(針刺し、粘膜曝露)である事を確認。
□ 事故概要、PEP開始について診療録に記載。
□ 抗HIV薬を院内処方する。
デシコビ®配合錠HT1錠1日1回 +アイセントレス®400mg 1日2回
(平日感染症科外来日までの日数分)
□ 全額自費。会計窓口で「労災」である旨を伝えるよう説明。

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