抗HIV治療ガイドライン(2023年3月発行)

XV小児、青少年期における抗HIV療法

2.小児におけるHIV感染症の診断

 小児のHIV感染はほとんどが周産期に起きるので、妊婦のHIV感染を発見することがまずもって重要である。これにより母子感染の予防を行うことが可能となり、感染児の早期診断・治療も可能になる。

 HIVに感染した母から生まれた新生児には、ハイリスク状態(妊娠中の抗HIV薬投与がないか、あっても分娩近くの血中HIV RNA量が1,000コピー/mL以上)では生後48時間以内に、それ以外では生後14〜21日目に核酸増幅法(NAT)を用いたウイルス学的検査を行うべきである。母体血混入の可能性があるので臍帯血を用いて検査を行ってはならない。新生児のウイルス学的検査の中では、サブタイプBを検出するDNA PCRのデータが確立されており、生後48時間以内に約40%の症例でDNA PCRが陽性となり(このため生後すぐに最初の検査を行うという専門家もいる)、1週目の検出率は同レベルにとどまるものの、2週目になると検出率が上昇して、生後14日目には90%以上、生後3から6ヵ月には100%で母子感染の診断が可能となる4, 5)。(生後すぐに行った検査が陰性だった場合は、生後14〜21日目にも検査を行うことが勧められる)。RT-PCRによるRNA検査もDNA PCR検査に近い感度があることが示されているので、HIV RNA PCR検査を行ってもよい。いずれのウイルス学的検査を行うにしても、本ガイドラインでは、生後48時間以内、生後14日〜21日、1〜2ヵ月、4〜6ヵ月の4ポイントで実施することを推奨する。母子感染のリスクが高い場合は、上記に加えて生後2〜3ヵ月に検査を行う。また、リスクにかかわらず、予防内服終了後、2〜6週間後に追加検査することが推奨される。

 ウイルス学的検査が陽性となった場合は、速やかに2度目の検査を行って確認する必要がある。HIV感染の可能性が疑われる場合にはニューモシスチス肺炎(PCP)の予防が必要となる(生後4〜6週よりST合剤を開始し、1歳まではCD4数のいかんに関わらず続ける)が、生後14〜21日目および1ヵ月以降の2回以上の検査が陰性であれば、HIV感染症の可能性はかなり低いと考えて、PCP予防を行わなくてもよい6)。さらに1ヵ月目以降と4ヵ月目以降の2回の検査が陰性ならば、HIV母子感染を否定できるが、多くの専門家は、生後12〜18ヵ月の抗体検査で陰性を再確認するようにしている。

 血清学的検査は、母親からの移行抗体(子宮内で)があるため、乳児の感染スクリーニングには使えないが、生後6ヵ月以降で1ヵ月以上間隔をおいた2回以上のHIV IgG抗体検査が陰性であり、臨床的にもウイルス学的にも感染の証拠がなければ、HIV感染症はほぼ否定できる。抗体陰性を確認できない場合は、母親からの移行抗体が消失する生後12ヵ月以降に検査を行うことが勧められ、12ヵ月でも陽性と出る場合には、さらに15から18ヵ月での検査が勧められている。周産期の母子感染が予防できても、カウンセリング不十分などにより、母乳や口移しの離乳食で水平感染することがまれに報告されるので、18ヵ月以降の抗HIV抗体陽性はHIV感染を示唆し、NATでの確認検査が必要である1)

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