IX抗HIV薬の副作用
8.リポアトロフィー
抗HIV薬を長期間内服している患者で、リポアトロフィーと呼ばれる体脂肪の分布異常(腹部内臓脂肪の増加と、手足・顔面の皮下脂肪の減少)が生ずることが報告されている84, 85)。明確な原因は不明であるが、脂肪細胞のミトコンドリアDNA量の減少が認められることからNRTIのミトコンドリアDNAポリメラーゼγ活性阻害が一因と推測されている。d4T(現在は発売中止)の使用者でリポアトロフィーの頻度が高いことはこの仮説と符合するが、PIの使用との関連も示唆されている。ART開始後数ヶ月ほど経てから徐々に明らかとなり、報告・定義により異なるが25~75%の症例に発症するとされる86)。高度のリポアトロフィー例は頬のやせた特有の顔貌になり、美容上の観点から患者には苦痛となる。
リポアトロフィーは、QOLの低下、服薬アドヒアランスに影響をもたらす有害事象であり、その予防・対応については、チミジンアナログを回避し、ABCもしくはTDFやTAFの使用がすすめられている32)(図IX-4)。McComseyらはART未経験者におけるABCまたはTDFを含むART開始後の脂肪量の増加及びリポアトロフィー(四肢における10%以上の脂肪量の減少)の発症率が16.3%と報告している87)。
図IX-4 チミジンアナログ(AZT, d4T)から変更後の脂肪量の推移



AZTまたはd4TからABCまたはTDFに変更したあとの脂肪量の推移について、DEXAを用いて計測した変化を示す。
Moyle GJ, et al. AIDS. 20:2043-2050, 2006