V初回治療に用いる抗HIV薬の選び方
6.わが国で実際に使用されている抗HIV薬の組み合わせ
HIV診療の経験のある医師が実際にどのような薬剤を選択しているかについて、わが国の実態を紹介する。図V-2は、澤田らが毎年行っている「服薬援助のための基礎的調査」からのデータで、初回治療に処方された抗HIV薬の組み合わせを示している73)。ある程度まとまった症例数の処方状況として提示できる最新のものであるがこれすらも2021年3月までのデータであり、既に過去であることを認識して頂きたい。「ガイドライン」とは現段階で最も良いと思われる治療方針を示すもので、より良い治療法の開発や新しい副作用の懸念の出現により推奨薬剤は頻繁に変更されており、処方薬剤は時代によって大きな変動がある。一方において、ガイドラインにおける初回治療推奨薬が変わったとしても患者のアドヒアランスが良好でHIV RNAが抑制されており問題となる副作用も生じておらず患者が変更を希望しない場合には今までの治療を当面継続することは間違いではない。
図V-1-1 服薬率と抗HIV療法の成功率の関係

Paterson et al. Ann Intern Med. 133: 21, 2000 より作成。
図V-1-2 服薬率と抗HIV療法の成功率の関係

Cordon LL, et al. AIDS Patient Care STDs 2015 Jul:29(7);384より作成。
表V-7 服薬率を保つための工夫
- <服薬開始前~開始後1ヶ月>
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- 無症候であっても早期に治療開始することの重要性、服薬率の重要性、通院・服薬中断のリスクを説明する
- 1日に内服する薬剤の実物を見せ、錠剤数・回数・食事制限を考慮して本人と一緒に薬剤を選択する
- 予測される副作用の種類、出現時期、経過を説明する
- 体調がおかしければいつでも電話で相談可能であることを教える
- <服薬開始後1ヶ月以上してから>
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- 受診ごとに何回飲み忘れ、あるいは時間のずれがどのぐらいあったかを聞く
by 医師、看護師、薬剤師 - 副作用に関する問診
QOLに影響するようなら他剤への変更を考える - 飲み忘れる原因を分析し、工夫を考える
- 外出時薬を持って行くのを忘れる
- 飲酒して帰宅すると、内服するのを忘れて寝てしまう
- 内服したかどうかわからなくなる
- 休日昼まで寝ていて朝の薬が飲めない、など
- どうしても薬が手に入らない場合(震災など)には通常通りの内服後、一定期間中断した方が1日おきに内服して長持ちさせるよりも薬剤耐性ウイルスを誘導しにくいことを伝える
- 受診ごとに何回飲み忘れ、あるいは時間のずれがどのぐらいあったかを聞く
図V-2 わが国での初回ARTレジメンの変化
