II2023年3月版の主な変更点
前年度版から変更した主要な箇所には黄色のマーカーを付してある。以下に、2023年3月版で変更・追記した主要なポイントを挙げる:
- ▶医療従事者は「効果的なARTにより血中HIV RNA量を200コピー/mL未満に持続的に抑制することにより性的パートナーへのHIVの感染を防止できる」ことをHIV陽性者に伝える必要がある。
- ▶ウイルス学的抑制が長期に安定して得られている患者(第VI章)における持効性注射剤(CAB+RPV注)への変更については、利便性の向上に加え、毎日の服薬に関連するスティグマやプライバシーなども変更理由として挙げられる。持効性注射剤(1ヶ月間隔投与、2ヶ月間隔投与ともにAI)への変更は、適切な症例を選択すれば治療変更の選択肢として十分考慮できる。
- ▶治療失敗時の薬剤変更(第VII章)では、薬剤耐性症例に対するSalvage療法についての記載を改訂した。
- ▶小児、青少年期における治療に関連し、最新のガイドラインに基づき推奨薬を改訂した(第XV章)。
その他の章にも適宜加筆・修正を行ない、内容をアップデートしている。
<付>「推奨の強さ」と「推奨のエビデンスの質」をそれぞれA~C、I~IIIの三段階に分け、推奨評価の基準を記載した。
推奨の強さ
- A:強く推奨
- B:中程度の推奨
- C:任意
推奨のエビデンスの質
- I:臨床的エンドポイントおよび/または妥当性確認済みの検査評価項目を設定した無作為化臨床試験が1件以上
- II:適切にデザインされた非無作為化試験、長期の臨床成績を追跡した観察コホート研究、相対的生物学的利用能・同等性試験、もしくは無作為化された薬剤変更比較試験からのデータ
- III:専門家の見解
XV章の「小児、青少年期における抗HIV療法」における推奨評価基準の内容は成人と異なる(下表)。
推奨の強さ
- A:強く推奨
- B:中程度の推奨
- C:任意
推奨のエビデンスの質
- I:小児で臨床的エンドポイントおよび/または妥当性確認済みの検査評価項目を設定した無作為化臨床試験が1件以上
- I*:成人で臨床エンドポイントおよび/または妥当性確認済みの検査評価項目を設定した無作為化臨床試験が1件以上あり、小児でも無作為化比較試験、またはコホート研究が1つ以上
- II:小児で長期的な臨床エンドポイントを設定した、適切にデザインされた非無作為化臨床試験または観察コホート研究が1件以上
- II*:成人で長期的な臨床エンドポイントを設定した、適切にデザインされた非無作為化臨床試験または観察コホート研究が1件以上あり、小児でも(小規模の)非無作為化比較試験、またはコホート研究が1つ以上
- III:専門家の見解
ガイドライン使用上の注意
抗HIV治療ガイドラインは2023年3月現在の情報に基づいて記載されている。本ガイドラインは、医療者がHIV感染症の診療を行う場合の指針であり、最終的に診療をどのように行うかは個別の症例で病態を把握し、患者への利益を考えた上での判断が優先される。
追訴されるべき法的論拠を本ガイドラインが提供するものでは決してない。
<付>本ガイドラインで頻繁に用いられる略語
-
- ART :
- antiretroviral therapy、抗レトロウイルス療法
- NRTI :
- nucleoside/nucleotide reverse transcriptase inhibitor、
核酸系(ヌクレオシド/ヌクレオチド)逆転写酵素阻害剤 - NNRTI :
- non-nucleoside reverse transcriptase inhibitor、非核酸系逆転写酵素阻害剤
- PI :
- protease inhibitor、プロテアーゼ阻害剤
- unboosted PI :
- rtv(リトナビル)もしくはcobi (コビシスタット)を併用しないPI
- boosted PI :
- rtvもしくはcobiを併用するPI
- INSTI :
- integrase strand transfer inhibitor、インテグラーゼ阻害剤
薬剤名は原則としてアルファベット3文字略称で示した(表V-1)参照。
利益相反の申告
各改訂委員には、下記の基準で利益相反状況の申告を得た(内科系14学会によって作成された「臨床研究の利益相反(COI)に関する共通指針」による)。
- 臨床研究に関連する企業・組織や団体の役員、顧問職については、1つの企業・組織や団体からの報酬額が年間100万円以上とする。
- 株式の保有については、1つの企業についての1年間の株式による利益が100万円以上の場合、あるいは当該全株式の5%以上を所有する場合とする。
- 企業・組織や団体からの特許権使用料については、1つの権利使用料が年間100万円以上とする。
- 企業・組織や団体から、会議の出席(発表)に対して支払われた日当(講演料など)については、一つの企 業・団体からの年間の講演料が合計50万円以上とする。
- 企業・組織や団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料については、1つの企業・組織や団 体からの年間の原稿料が合計50万円以上とする。
- 企業・組織や団体が提供する研究費については、1つの企業・団体から臨床研究(受託研究費、共同研究 費など)に対して支払われた総額が年間200万円以上とする。
- 企業・組織や団体が提供する奨学(奨励)寄付金については、1つの企業・組織や団体から、申告者個人または申告者が所属する部局(講座・分野)あるいは研究室の代表者に支払われた総額が年間200万円以 上の場合とする。
- 企業・組織や団体が提供する寄付講座に申告者らが所属している場合とする。
- その他、研究とは直接無関係な旅行、贈答品などの提供については、1つの企業・組織や団体から受けた 総額が年間5万円以上とする。但し、6、7については、筆頭発表者個人か、筆頭発表者が所属する部局(講座、分野)あるいは研究室などへ研究成果の発表に関連し、開示すべきCOI関係にある企業や団体などからの研究経費、奨学寄付金などの提供があった場合に申告する必要がある。
上記の基準に基づいて得た申告内容は以下の通りである。
- 照屋勝治は、塩野義製薬株式会社から講演料を受けている。
- 永井英明はグラクソ・スミスクライン株式会社、MSD株式会社から講演料を受けている。
- 萩原 剛はシミック株式会社から研究費を受けている。
- 南 留美は、ヴィーブヘルスケア株式会社から講演料を受けている。
- 四本美保子はシミック株式会社から研究費を受けている。
- 四柳 宏は、ギリアド・サイエンシズ株式会社から講演料を受けている。
- 遠藤知之、古西 満、田中瑞恵、塚田訓久、増田純一、渡邊 大は申告すべきものなし。