抗HIV治療ガイドライン(2023年3月発行)

XIV急性HIV感染症とその治療

要約

HIV感染症の急性期(感染後6ヵ月以内の早期)に抗HIV療法を導入することに関しては、いくつかの臨床試験においてウイルス学的、免疫学的有益性が示唆されている。また、極めてウイルス量が高い急性期に治療することによって他人へのウイルス伝播のリスクが低下するという観点からも、急性期においても免疫機能障害者申請の認定基準を満たしたら速やかに治療を開始することを推奨する(AI)。治療開始後は、原則として治療を中断することなく継続する(AIII)。

1.病態

 HIVの感染経路は、性行為、薬物静注や針刺し曝露、母子感染などであるが、多くは性行為により膣や直腸などの粘膜を介して起こる。粘膜面から侵入したウイルス粒子は、CD4陽性Tリンパ球(以下、CD4細胞)やランゲルハンス細胞、マクロファージなどに直接感染しうるが、多くは粘膜内の樹状細胞にトラップされて近隣のリンパ臓器に運ばれる。その後、数日のうちに主に消化管のリンパ網内系組織内のCD4細胞に感染・増殖し、それから全身に広がっていく。このリンパ系組織内で増幅される期間はエクリプス(日蝕)期と呼ばれ、感染曝露のおよそ11日目以前には末梢血中からHIV RNAは検出されない1)。なお、諸外国のガイドラインでは、急性感染(acute)とはHIV p24抗原またはHIV RNAが陽性でHIV抗体が陰性である時期を、最近の感染(recent)とは感染後6ヶ月以内を指すのが一般的で、これらの時期をまとめて初感染(primary)ないしは感染早期(early)と定義されている2-5)。本項では、狭義の急性期を含めたHIV感染後6ヶ月以内の病態について記載する。

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