抗HIV治療ガイドライン(2022年3月発行)

XVI医療従事者におけるHIVの曝露対策

6.曝露後の抗HIV薬内服(表XVI-1)

 内服開始前には、最低限以下の3項目は確認が必要である。

  1. 女性医療者では妊娠かつ妊娠可能性の確認
  2. 慢性B型肝炎のある医療者では、抗HIV薬の選択において注意が必要である
  3. 腎機能に問題のある医療者では、抗HIV薬の選択において注意が必要である

 HIV曝露後予防の具体的方法は、2013年のCDCガイドライン6)では第1推奨薬は以下の2剤に単純化されている。

  1. アイセントレス®(Raltegravir:RAL)1錠400mg、1回1錠、1日2回
  2. ツルバダ®配合錠(Truvada:TDF/FTC)1錠、1回1錠、1日1回

 HIV感染者への治療においては、ツルバダ®(TDF/FTC)は基本的にはデシコビ®配合錠(TAF/FTC)に代替可能と考えられている。2022年1月時点でも曝露後予防内服として米国CDCは「ツルバダ®の代替薬としてデシコビ®が使用可能である」との見解は示していない。しかしながら、現実には多くの医療機関では採用薬としてツルバダ®はデシコビ®に置き換えられている。本ガイドラインでは効果の同等性と各種有害事象の少なさから、デシコビ®を優先的に使用する事を推奨する。デシコビ®配合錠(TAF/FTC)はHTとLTの2種類がある点に注意する(HTはTAF 25mg、LTはTAF 10mgを含有)。アイセントレス®と併用する場合は「デシコビ®配合錠HT」を用いる。デシコビ®はツルバダ®と同じく1日1回1錠であり、食事と無関係に内服可能である。妊娠14週以降の妊婦への安全性も確立している。2021年改定の周産期(もしくは妊婦)に関するDHHSガイドラインでは、TAFはpreferrd regimenに位置づけられている。TAFはTDFと比較した時の腎毒性のリスクが明らかに低く、妊娠・出産への影響も少なかった4, 14)

 ドルテグラビル(DTG、テビケイ®)は、多くの治療ガイドラインにおいて第1推奨薬として位置付けられ、治療薬としての効果は確立している。2013年の米国CDCの曝露後予防内服ガイドライン6)の発行時にはDTGは承認されていなかったため記載はないが、最新のヨーロッパの治療ガイドライン内にはDTGは代替薬として考慮しても良いと記載されている15)。女性が受胎時にDTGを使用した場合に新生児の神経管欠損症(neural tube defects:NTD)が増える可能性が報告され、最終的にはDTG以外の抗HIV薬を内服していた場合と比較してやや高率であるものの統計学的有意差がないという結論に達した16-18)第V章参照)。飲みやすさ(1日1回1錠)や相互作用の少なさなどを考慮して、本ガイドラインにおいてはDTGを第2推奨薬として位置付けることとする。妊娠の可能性のある女性の場合にはアイセントレス®の方が望ましいが、アイセントレス®がすぐに入手できない場合にはDTGで開始することも考慮してよい。DTGはRALと比較し有害事象による中止例の多い可能性がある19)。日本では、関根らの報告20)によると269例のDTG使用例において精神神経障害合併8.9%(頭痛3%、迷走神経障害2%、異夢2%、睡眠障害2%)・消化器障害合併7.8%(下痢3%、悪心2%)・肝機能障害合併3.3%であり、副作用による中断は8例=3%(肝機能障害3例、消化器障害2例)であった。しかしHRD共同調査協議会の報告では、「テビケイ®+ツルバダ®配合錠」940例での精神神経障害合併率は1.7%、「トリーメク®」599例での精神神経障害合併率は1.33%と高頻度ではなかった21)

表XVI-1 HIV曝露後予防のレジメン(以下を28日間内服する)
(1)第1推奨
1)アイセントレス®(RAL)+デシコビ®配合錠HT(TAF/FTC)
2)アイセントレス®(RAL)+ツルバダ®配合錠(TDF/FTC)
  • アイセントレス®は400mgを1日2回内服する(1日2錠)。
    なお、アイセントレス®は600mgの錠剤もあり、1日1回2錠(1200mg)内服という選択肢もあるが、基本は400mg錠の1日2回内服とする。
  • ツルバダ®配合錠、デジコビ®配合錠HTは1日1回1錠を内服する。
    後者の妊娠14週未満の安全性は厳密には確立されていない。
  • 上記薬剤は食事とは無関係に開始可能である。
(2)第2推奨
1)テビケイ®(DTG)+デシコビ®配合錠HT(TAF/FTC)
2)テビケイ®(DTG)+ツルバダ®配合錠(TDF/FTC)
  • ツルバダ®配合錠、デジコビ®配合錠HTは1日1回1錠を内服する。
    後者の妊娠14週未満の安全性は厳密には確立されていない。
  • 上記薬剤は食事とは無関係に開始可能である。
(3)専門家との相談があったときのみ使用して良い抗HIV薬
  • ザイアジェン®(Abacavir; ABC)
    注:トリーメク®配合錠内服の経験蓄積と日本人でのHLA B*5701対立遺伝子の保有率の低さから、以前より上位の選択肢になりうると考えられる。
(4)以下の薬剤は、曝露後予防としては禁忌(または推奨されない)。
  • ビラミューン®(Nevirapine; NVP)

予防内服薬の選択に当たって、特に専門家への相談が必要な状況を表XVI-2にまとめた。

【被曝露者が慢性B型肝炎患者である場合】

 理論的には抗HBV効果のない薬剤が望ましいが(内服終了後にHBVのリバウンドを生じうるため)、それはガイドラインが推奨する「キードラック1剤+2剤のNRTI」の組み合わせにはならない。専門家との相談が必要である。

【曝露者に腎障害がある場合】

 専門家との相談が必要である。すぐに連絡がつかない場合には、標準推奨薬で1回目の内服を速やかに行う。

【由来患者に薬剤耐性の可能性がある場合】

 専門家との相談が必要である。すぐに連絡がつかない場合には、標準推奨薬で1回目の内服を速やかに行う。

表XVI-2 曝露後の抗HIV薬予防内服時に専門家に相談することが推奨される状況
1 曝露の報告が遅延した場合
(例えば72時間以上)
遅延した場合には曝露後予防での有効性は不明である。
2 由来源不明の場合
(例えば針捨てボックス内や洗濯物内の針)
曝露後予防はケースバイケースで使用すること。曝露の重篤さとHIV曝露の疫学的起こりやすさを勘案して考えること。針や鋭利物に対してHIV検査を実施することは米国では推奨されていない。
3 曝露者に妊娠が明確または疑われる場合 専門家への相談のために曝露後予防が遅れてはならない。
4 曝露者における授乳 専門家への相談のために曝露後予防が遅れてはならない。
5 由来ウイルスの薬剤耐性が明確または疑われる場合 由来患者ウイルスが曝露後予防で使用される薬剤の1剤以上への耐性が明確である、または疑われる場合には、由来患者ウイルスが耐性がないであろう薬剤を選択することが推奨される。また、由来患者ウイルスの耐性検査を待つために曝露後予防が遅れてはならない。
6 曝露後予防開始後の毒性 症状(例えば消化器症状やその他症状)の多くは曝露後予防の薬剤を変更することなく対応可能である。症状はしばしば不安により悪化するため、副作用への対応に関するカウンセリングとサポートは非常に重要である。
7 曝露者における重篤な疾患 背景に重篤な疾患がある場合や曝露者が既に複数の薬剤を内服している場合には、薬剤毒性や薬剤相互作用が増える可能性を考慮しなければならない。

PAGE TOP