抗HIV治療ガイドライン(2023年3月発行)

X免疫再構築症候群

2.リスク評価

 抗HIV治療を開始する前に免疫再構築症候群の発症リスクを把握できることは、抗HIV治療中の経過管理にとって有益な情報の一つとなる。Frenchら7)は、免疫再構築症候群を起こした症例は起こしていない症例に比べ、抗HIV治療開始時のCD4陽性Tリンパ球数(以下、CD4数)が低く(88 vs 237/μL、P=0.0001)、血中HIV RNA量が高い(5.36 vs 4.88 log10コピー/mL、P=0.007)と報告している。厚生労働省「HAART時代の日和見合併症に関する研究」班(主任研究者:安岡 彰)もCD4数が50/μL以下で、血中HIV RNA量が10万コピー/mL以上の症例では抗HIV治療時に免疫再構築症候群の発症に注意すべきである8)としている。

 表X-4には、Walkerら9)の総説に記載されている免疫再構築症候群の危険因子を示す。今後のさらなるデータ集積が求められるが、表に掲げたような因子をもつ症例に抗HIV治療を始める場合には、免疫再構築症候群の発症に注意しながら経過をみていく必要がある。また、Dutertreら10)はインテグラーゼ阻害剤をベースとする抗HIV治療では入院を要する重篤なIRISを発症するリスクが高いと報告している。Wijtingら11)はATHENA(AIDS Therapy Evaluation in the Netherlands)コホートを後方視的に解析し、インテグラーゼ阻害剤を含む抗HIV治療は免疫再構築症候群の発症リスク(オッズ比 2.43、95%CI:1.45-4.07)であるが、入院率や死亡率を増やすことはなかったと報告している。一方でKityoら12)は、キードラッグをラルテグラビルと非核酸系逆転写酵素阻害剤の2群に分け比較した無作為試験では免疫再構築症候群の発症率に有意差を認めなかったと報告している。2021年にもインテグラーゼ阻害剤が免疫再構築症候群の発症に影響するという報告13)と影響しないという報告14, 15)があったが、Zhaoら16)による14のランダム化比較試験のメタ解析結果ではインテグラーゼ阻害剤が免疫再構築症候群の発症率に影響しない結論となっている。

表X-4 免疫再構築症候群の発症に関連した危険因子
宿主要因
  • 抗HIV治療開始時の低CD4数(<50/μL)
  • 抗HIV治療開始前に日和見感染症の発症
  • 遺伝的素因(HLA-B44, HLA-DR4, TNF-α-308*I, IL-6-174*Gなど)
  • 日和見感染症診断時の乏しい免疫反応
病原体要因
  • 病原体抗原量(播種性感染、くすぶり感染)
  • 高HIV-RNA量(≧10万コピー/mL)
治療要因
  • 日和見感染症治療後短期間での抗HIV治療開始
  • 抗HIV治療後の血中HIV-RNA量の急速な減少

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