抗HIV治療ガイドライン(2023年3月発行)

XIIHIV/HBV共感染者での抗HIV療法

6.HIV未確認者におけるHBV単剤治療は不可;エンテカビルを含む全ての核酸系抗ウイルス薬は単独使用できない(AII)

 国内におけるHBV治療薬の承認は、2000年のラミブジン:LAM(ゼフィックス®)に始まり、2004年にアデホビル:ADV(ヘプセラ®(発売中止)、2006年にはエンテカビル:ETV(バラクルード®)が使用可能となった。2011年にはペグインターフェロン(Peg-IFN)α-2a(ペガシス®)が慢性B型肝炎治療薬として効能・効果を追加承認された。2014年にテノホビル・ジソプロキシフマル酸塩:TDF(テノゼット®)、2017年2月にテノホビル・アラフェナミドフマル酸塩:TAF(ベムリディ®)が慢性B型肝炎に対する使用を承認された18)

 Peg-IFNと核酸アナログ製剤はその特性が大きく異なる治療薬であり、その優劣を単純に比較することはできない。HBe 抗原陽性例・陰性例のいずれにおいても、長期目標である HBs 抗原陰性化率はPeg-IFNの方が優れているが、短期目標である ALT 持続正常化率、HBV DNA 増殖抑制率は核酸アナログ製剤の方が良好である。B 型肝炎症例の治療に当たっては、B 型肝炎の自然経過、および Peg-IFN と核酸アナログ製剤の薬剤特性をよく理解し、個々の症例の病態に応じた方針を決定する必要がある(BIII)18)

 日本肝臓学会のB型肝炎治療ガイドラインによると単独HBV慢性肝炎の場合には「慢性肝炎に対する初回治療では、HBe抗原陽性・陰性やHBVゲノタイプにかかわらず、原則としてPeg-IFN単独治療を第一に検討する。特に、若年者や挙児希望者など、核酸アナログ製剤の長期継続投与を回避したい症例ではPeg-IFNが第一選択となる(BIII)。一方、忍容性などによる Peg-IFN不適応症例、線維化が進展し肝硬変に至っている可能性が高い症例などでは、長期寛解維持を目的として初回から核酸アナログ(ETV、TDF、TAF)による治療を行う。Peg-IFN 不適応症例には、忍容性により Peg-IFN治療を施行し得ない症例に加え、薬剤特性を理解した上で同治療を希望しない症例も含まれる(BIII)。」としている18)。Peg-IFNの認可は2011年であり、2000年〜2006年にすでにラミブジン、アデホビル、エンテカビルが認可されていたため、忍容性の高い経口剤による治療が選択される機会が多かった。すなわち2006年以前には、HIVの共感染を見落としたまま、ラミブジンを単独投与してしまうという事例が数多くみられた。そのため、HIVのラミブジン耐性変異であるM184Vを多く生じさせ、HIV治療の大きな柱を失うこととなった。HBV耐性変異M204V/I(YMDD変異)もラミブジン2年間の使用で40%、4年間の使用で90%に生じると予測されている20, 21)。このため新規にHIV感染者を診療する場合には、過去のHBV治療歴を詳しく聴取する必要がある。また2007年には、B型慢性肝炎治療に最も使用頻度が高いエンテカビルで、抗HIV効果を有しHIVの耐性変異(M184V)を生じ得ることが報告されており22)、HIV感染の有無を未確認下でエンテカビルを単独使用することはあってはならないことである13-15)。アデホビルも理論的には抗HIV薬であるテノホビルに対する薬剤耐性(K65R)を誘導する可能性があり、同様に単独使用は控えるべきである23)

 初回治療として推奨されるARTレジメンにはドルテグラビル(DTG)/アバカビル(ABC)/3TCや(AI)、2剤療法でDTG/3TCも推奨されるレジメンに加わり(AI)、代替療法にはNRTIフリーのレジメンがあることは、HIV/HBV共感染者の薬剤選択においては注意が必要な点である13)また、アジア、アフリカなどでの比較的安価なHIV薬の合剤(d4T/3TC/NVP、AZT/3TC/EFVなど)の投与により、共感染しているHBVの耐性化例が報告されており、これらの地域からのHBV耐性株の蔓延が危惧されるところである24)

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