抗HIV治療ガイドライン(2025年3月発行)

XVI医療従事者におけるHIVの曝露対策

5.PEPのレジメン(表XVI-1)

 PEPの具体的方法は、2013年のCDCガイドライン7)では第1推奨薬は以下の併用に簡素化されている。

  1. アイセントレス® (RAL)1錠400mg、1回1錠、1日2回
  2. ツルバダ®配合錠 (TDF/FTC)1錠、1回1錠、1日1回

 HIV感染者への治療においては、ツルバダ®(TDF/FTC)は基本的にはデシコビ®配合錠(TAF/FTC)に代替可能と考えられている。しかし、2024年3月時点でも米国CDCのガイドラインでは曝露後予防内服として「ツルバダ®の代替薬としてデシコビ®が使用可能である」との見解は示していない。しかしながら、現実には多くの医療機関では採用薬としてツルバダ®はデシコビ®に置き換えられている。5000人以上を対象としPrEP(Pre-Exposure Prophylaxis, 曝露前予防)としての有効性をTAF/FTC vs TDF/FTCで比較した二重盲検無作為化試験12)では、全参加者が48週以上、半数が96週の追跡を終了した時点で評価された。8756人年の追跡時点で22人(7人 vs 15人)のHIV感染例が確認され、HIV incidence rate ratio(IRR)は0.47(95%CI 0.19-1.15)と非劣性マージン1.62を下回っており、TAF/FTCによるPrEPのTDF/FTCに対する非劣性が示された。PrEPは針刺し曝露後のPEPとは状況は異なるが、この結果からも理論的には同様に予防効果が期待できると解釈して良いと考えられる。

 本ガイドラインでは効果の同等性と各種有害事象の少なさから、デシコビ®も優先的に使用可能な薬剤として推奨する。デシコビ®配合錠(TAF/FTC)はHTとLTの2種類がある点に注意が必要であり(HTはTAF 25mg、LTはTAF 10mgを含有)、アイセントレス®と併用する場合は「デシコビ®配合錠HT」を用いる。デシコビ®はツルバダ®と同じく1日1回1錠であり、食事と無関係に内服可能である。妊婦への安全性も確立している。周産期(もしくは妊婦)に関するDHHSガイドライン4)では、TAFはpreferred regimenに位置づけられている。TAFはTDFと比較した時の腎毒性のリスクが明らかに低く、妊娠・出産への影響も少なかった4, 13)

 ドルテグラビル(DTG:テビケイ)は、多くの治療ガイドラインにおいて第1推奨薬として位置付けられ、治療薬としての効果は確立している。欧州エイズ学会(EACS)のガイドラインではDTGおよびビクテグラビル(BIC:TAF/FTCとの合剤でビクタルビ®も曝露後予防内服の選択薬剤として記載されている14)。妊婦におけるDTG使用については、かつて、新生児の神経管欠損症(neural tube defects:NTD)が増える可能性が報告されたが、最終的にはDTG以外の抗HIV薬を内服していた場合と比較してやや高率であるものの統計学的有意差がないという結論に達している15-17)第V章参照)。BICについても安全性に関する知見が蓄積され、現時点で妊婦に対する抗HIV治療の代替レジメンに位置付けられている(第V章参照)。以上より、飲みやすさ(1日1回)や耐性バリアの高さなどを考慮して、本ガイドラインにおいてはDTGおよびBICも推奨レジメンとして位置付けることとした。

 予防内服薬の選択に当たって、特に専門家への相談が必要な状況を表XVI-2にまとめた。

表XVI-1 PEPのレジメン(以下を28日間内服する)
推奨レジメン(以下のいずれかを選択する)
  • アイセントレス®(RAL)+デシコビ®配合錠HT(TAF/FTC)
  • アイセントレス®(RAL)+ツルバダ®配合錠(TDF/FTC)
    • アイセントレス®400mg錠を1回1錠1日2回
      もしくはアイセントレス®600mg錠を1回2錠1日1回
  • テビケイ(DTG)+デシコビ®配合錠HT(TAF/FTC)
  • テビケイ(DTG)+ツルバダ®配合錠(TDF/FTC)
  • ビクタルビ®配合錠(BIC/TAF/FTC)
表XVI-2 PEP時に専門家に相談することが推奨される状況
1 曝露の報告が遅延した場合
(例えば72時間以上)
遅延した場合にはPEPでの有効性は不明である。
2 曝露源不明の場合
(例えば針捨てボックス内や洗濯物内の針)
PEPはケースバイケースで行うこと。曝露の重篤さとHIV曝露の疫学的起こりやすさを勘案して考えること。針や鋭利物に対してHIV検査を実施することは米国では推奨されていない。
3 被曝露者に妊娠が明確または疑われる場合 専門家への相談のためにPEPが遅れてはならない。
4 被曝露者における授乳 専門家への相談のためにPEPが遅れてはならない。
5 曝露源ウイルスの薬剤耐性が明確または疑われる場合 曝露源患者ウイルスがPEPで使用される薬剤の1剤以上への耐性が明確である、または疑われる場合には、曝露源患者ウイルスが耐性がないであろう薬剤を選択することが推奨される。また、曝露源患者ウイルスの耐性検査を待つためにPEPが遅れてはならない。
6 PEP開始後の毒性 症状(例えば消化器症状やその他症状)の多くはPEPの薬剤を変更することなく対応可能である。症状はしばしば不安により悪化するため、副作用への対応に関するカウンセリングとサポートは非常に重要である。
7 被曝露者における重篤な疾患 背景に重篤な疾患がある場合や被曝露者が既に複数の薬剤を内服している場合には、薬剤毒性や薬剤相互作用が増える可能性を考慮しなければならない。
8 被曝露者が慢性B型肝炎患者である場合 専門家への相談のためにPEPが遅れてはならない。
9 被曝露者に腎機能障害がある場合 専門家への相談のためにPEPが遅れてはならない。

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