VIウイルス学的抑制が長期に安定して得られている患者での薬剤変更
7.治療変更に関する補足事項
(1)HBV感染
HBVを合併するHIV感染者の場合の抗HIV治療の変更は、初回治療と同様にHIVとHBV双方に抗ウイルス効果のあるテノホビル(TAFもしくはTDF)と、FTCもしくは3TCを含めた組み合わせが原則である(AII)。なお、3TCやFTCはHBVに効果を有するが、これらをHBV感染に対し単剤で使用することは推奨されない(AII)。そのため、HBVを合併する患者(HBs抗原もしくは血中HBV DNA陽性)ではDTG/3TCやDTG/RPVなどの2剤療法は使用すべきではない。
キードラッグ2剤による2剤療法は抗HBV活性に欠け、HBV感染の予防効果がない31)。これらの組み合わせに変更する場合は、変更前にHBVの抗体価(HBs抗体とHBc抗体)を確認し、B型急性肝炎(新規感染)とHBVの再活性化のリスクの評価を行い、必要に応じてHBVワクチンを接種する。
HBVに暴露されたが慢性感染症のない状態(HBs抗原陰性、HBc抗体陽性、HBs抗体陽性もしくは陰性など)であればHBVの再活性化のリスクは極めて低く、NRTI中止によるHBV再活性化による肝炎のリスクは低いと考えられるが、どの程度危険性があるかについては明確なエビデンスは無い。これまでにこのような状態においてHIV感染症のレジメン変更に伴うHBV治療薬の中止が結果としてHBVの再活性化をもたらしたとする報告はあるが32)、少なくともHBs抗体陽性症例は中でも最も再活性化のリスクは低いと考えられる。HBVへの暴露歴のある症例については、TDFあるいはTAFを含む治療から含まない治療への変更後は受診毎に少なくとも6ヵ月間血清ALT検査を行い、数値が上昇した場合は速やかにHBV DNAを測定し、HBV再活性化の評価が必要である。HIV/HBV共感染者での抗HIV療法に関しては第VII章を参照。
(2)1クラス以上の薬剤耐性を保有する場合やウイルス学的治療失敗歴がある場合
薬剤耐性変異を保有する症例やウイルス学的治療失敗歴がある症例では、治療変更後に治療失敗となるリスクが高くなることがある7)。最近の多くの薬剤変更に関する第III相臨床試験では、このような症例は除外されている。耐性バリアの高いキードラッグを使用した時にNRTIの薬剤耐性変異の保有を許容したスイッチ試験の報告も存在するが11, 33, 34)、このような症例での薬剤変更は慎重に判断し、治療失敗時に準じて薬剤変更を行う(第VII章参照)か、経験のある専門家に相談することも検討すべきである(BIII)。
(3)ウイルス学的抑制の期間
治療薬変更前のウイルス学的抑制の期間は3〜6ヵ月以上とされているが、第III相臨床試験に組み込まれた症例ではより長期の治療が行われていた。例えば、BIC/TAF/FTCを被験薬とした1844試験では切り替え前の抗HIV薬が約1.1年、1878試験では約5.5年投与されていた5, 6)。
ウイルス学的抑制の期間が6ヵ月で十分なのかというクリニカルクエスチョンが存在する。CAB+RPV注の第III相臨床試験であるFLAIR試験では、6(2)に記載した通り初回治療からスイッチまでの期間は20週であった。少なくともCAB+RPV注の4週間隔投与への変更は、ウイルス学的抑制の期間は6ヵ月で十分であった。
(4)潜在的な薬剤相互作用の評価
新規の薬剤へ変更する場合、既存の治療との間に薬剤相互作用がないか必ず評価する必要がある。例えば、制酸剤とRPVなどがあり、多くの抗HIV薬は薬物輸送体やチトクロームP450(CYP)酵素の阻害剤、誘導剤、基質となる薬剤と相互作用する可能性がある。
さらに、新たな薬物相互作用だけでなく、特定の抗HIV薬の中止によって併用薬の投与量を調整する必要が生じる場合もある。例えば、薬物動態学的ブースターであるリトナビルやコビシスタットを中止すると、一部の併用薬の濃度が低下する可能性がある。そのため、これまで投与量を調整して管理していた併用薬についても、新しい抗HIV薬へ変更する際は再評価する必要がある。