抗HIV治療ガイドライン(2025年3月発行)

XV小児、青少年期における抗HIV療法

4.抗HIV療法の開始時期

 小児においても、多剤併用治療は効果的であり、ウイルス増殖を抑制し免疫系の破壊を食い止めて、日和見感染や臓器障害のリスクを減少させられる11-14)

 治療の開始時期については、近年多くの臨床研究で、早期治療がウイルスリザーバーの減少15)および免疫学的、成長、神経学的発達に有用であることが示されたため16-19、年齢や診断時のCD4数に関わらず、HIV感染症と診断された小児は直ちにもしくは、診断から数日以内に治療を開始することを推奨する。迅速な抗HIV療法の開始は、疾患の急速な進行と死亡のリスクが最も高い1歳未満の小児にとって特に重要である20-22)ただし、正期産で生後2週未満の新生児や生後4週未満の早産児については、薬物動態的に適切な薬物用量の検討が困難なため、研究的治療となる23)。また、結核等の日和見感染症がある場合は、まず日和見感染症の治療を開始し、抗HIV療法の開始時期は専門家に相談し検討する。

 早期治療介入の必要の根拠として、Children with HIV Early Antiretroviral Therapy:CHER試験は、南アフリカで行われた無作為臨床試験であり、生後6〜12週で、無症状かつCD4パーセンテージが正常(25%以上)であるHIV感染乳児にARTを開始した。直ちにARTを開始した群とCD4率が20%未満(1歳未満の場合は25%未満)に低下するか、臨床基準を満たした時点でARTを開始した群で比較したところ、直ちにARTを開始した群の早期死亡率が75%減少した13)。CHER試験と一致して、米国、欧州、南アフリカで行われた多くの観察研究のデータから、早期治療を受けた乳児はAIDSへの進行や死亡する可能性が低く、また、治療開始が遅れた乳児に比べて成長が改善し、成長障害の発症率も低いことが示された24-28)

 また、治療に当たってはアドヒアランスの維持が確保できることが絶対条件であり、治療薬に対して耐性のウイルスがひとたび出現すれば、将来の治療法の選択が制限されることも認識しておく必要がある。小児に対する抗HIV療法開始後は、服薬が遵守されているかどうかに細心の注意を払う必要がある。幼小児の服薬は保護者に依存するので、処方内容をよく理解させるため、治療を決定するプロセスに保護者と患児をいっしょに参加させ、アドヒアランスの重要性をよく説明する。また、治療開始後も頻回に服薬状況を観察する必要がある。

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