XIIHIV/HBV共感染者での抗HIV療法
6.HIV/HBV共感染におけるB型慢性肝炎治療時の問題点と対応
①HBV治療を兼ねたART開始による免疫再構築
HBV感染による肝障害の機序は主に細胞性免疫を介したものであるため、ART開始後に免疫再構築の結果として一過性のトランスアミナーゼ上昇がみられることがある。トランスアミナーゼが基準値の5〜10倍を越える場合には、治療の中止も考慮するとされている。しかしこの一過性の肝障害は、HBe抗原陽性からHBe抗体陽性へのセロコンバージョン期にあたっている場合もあり肝障害の鑑別診断(C型肝炎やアルコール、他の薬剤による肝障害)を行い、慎重な経過観察とともに治療を継続する方が望ましいと思われる(BIII)7, 8)。
②ARTレジメンとしてテノホビル(TDFまたはTAF)が使用できない場合
副作用やウイルス学的治療失敗の理由でテノホビルが使用できない場合には、テノホビルを含まないARTレジメンにエンテカビルを併用する(AII)7-9)。この際、ラミブジン耐性HBVの場合にはエンテカビルは通常量の0.5 mg/dayではなく、倍量の1 mg/dayで投与し(CIII)、さらに3ヵ月ごとにHBV DNAを検査し、ブレイクスルーに注意する7, 8)。
③治療のゴールが不明確である
HBV治療の当初の目標は、血中HBV DNA量を検出感度未満に低下させること、次いでHBe抗原陽性からHBe抗体陽性へのセロコンバージョン、更にHBs抗原陽性からHBs抗原陰性へのセロクリアランスである。しかしながら最も強力な組み合わせの一つであるTDF+3TCを用いたARTを129週施行した研究においても、HBe抗原陽性例のセロクリアランス率は36%、HBs抗原陽性例のセロクリアランス率は4%にすぎず16)、HBVは肝細胞核内に共有結合性閉環状DNA(Hepatitis B virus covalently closed circular DNA(HBV cccDNA))という形で遺伝子情報を残すため、現状では核酸アナログによる抗HBV療法は長期間を要し中途で終了することはできないと考えられる(AIII)10, 11)。治療のゴールとして肝関連合併症を防ぐことが挙げられるが、大規模コホート研究から、ART開始時のHBVウイルス血症の持続や血中HBV DNA量高値は、その後のHCC発症リスクの上昇に関連することが示されており、血中HBV DNA量の抑制がHCCリスクを低下(1年以上抑制することにより58%削減)させることが示されている17)。テノホビルを含む治療を行ったHIV/HBV共感染例の研究では、PAGE-Bスコア(年齢,性別,血小板数により算出)が10未満の場合のHCC発症の陰性的中率は99.4%であり、PAGE-Bスコア高値の場合はHCC発症により注意する必要がある18)。
④HIV/HBV共感染者で腎障害があるときの対応
クレアチニン・クリアランス(Ccr)が50mL/min以上であれば、TDF/FTCもしくはTAF/FTCの投与が可能であるが、Ccrが30から50mL/minまでの場合はTAF/FTCを選択することになる。Ccrが30mL/min未満の場合には腎障害調節量でのエンテカビルの使用を検討する(BIII)7, 8)。エンテカビルは、Ccrが30mL/min以上50mL/min未満では通常用量0.5mgを2日に1回、ラミブジン不応患者では1mgを2日に1回、Ccrが10mL/min以上30mL/min未満では通常用量0.5mgを3日に1回、ラミブジン不応患者では1mgを3日に1回、Ccrが10mL/min未満では通常用量0.5mgを7日に1回、ラミブジン不応患者では1mgを7日に1回、血液透析又は持続携行式腹膜透析(CAPD)患者に対しては通常用量0.5mgを7日に1回、ラミブジン不応患者では1mgを7日に1回(血液透析日は透析後に投与)の投与である(バラクルード®添付文書より)。Ccrが15〜30mL/minまでの場合はTAF 25mgが腎障害調節量なしに使用可能であるが、DHHSのガイドラインではCcrが30mL/min未満での場合のガイダンスは確立されていないとされている8)。Ccrが30mL/min未満では腎障害調節量でのTDF(血液透析の場合を含む)や3TC(透析の場合は含まない)も使用可能である。TDFは回復の見込みのない腎機能低下の場合にのみ使用し、腎機能を慎重にモニタリングする。いずれの場合も3TCを単独で投与してはならない。