IX抗HIV薬の副作用
7.ミトコンドリア障害
HIV感染と抗HIV薬はミトコンドリア機能を変化させ、その結果、ミトコンドリア障害と老化の加速につながる可能性がある。
近年、初代のNRTI(ddC、ddI、d4T:いずれも販売中止、ZVD)による強いミトコンドリア障害の結果生じる乳酸アシドーシスや著明なリポジストロフィー、末梢神経障害を見ることは減ったが、ABCまたはTDFを含むART開始後にもリポジストロフィーの発症が報告されている79)。末梢神経障害に関しても、HIV感染者では、無症候性のものも含め合併している頻度が高い。脱髄性炎症性ニューロパチー、単神経障害、血管炎性ニューロパチー、自律神経障害、遠位感覚性多発ニューロパチーを呈する。特に感覚性ニューロパチーの形で現れることが多い。発症にはHIVウイルスタンパクやNRTIによるミトコンドリア障害が関連している80)。不可逆的になる場合もあり、特にddI、ddC、d4Tの使用歴がある患者に末梢神経障害を認めた場合は薬剤性神経障害を疑う。
ミトコンドリアの機能不全は一般的にCVDや代謝障害など多数の加齢に伴う疾患と関連しており、抗HIV薬の副作用の中には、薬剤による細胞のミトコンドリア障害と関連があるものがある。NRTIによるDNAポリメラーゼ-γ阻害が、抗HIV薬によるミトコンドリア障害の潜在的な原因であるが81)、DNAポリメラーゼ-γ活性を阻害しないNNRTI、PI、およびINSTIもミトコンドリア障害と関連しており、血管内皮細胞、脂肪細胞、肝細胞など様々な組織で様々な機序が報告されている82-84)。