抗HIV治療ガイドライン(2025年3月発行)

X免疫再構築症候群

2.リスク評価

 抗HIV治療を開始する前に免疫再構築症候群の発症リスクを把握できることは、抗HIV治療中の経過管理にとって有益な情報の一つとなる。Frenchら7)は、免疫再構築症候群を起こした症例は起こしていない症例に比べ、抗HIV治療開始時のCD4陽性Tリンパ球数(以下、CD4数)が低く(88 vs 237/μL、P=0.0001)、血中HIV RNA量が高い(5.36 vs 4.88 log10コピー/mL、P=0.007)と報告している。厚生労働省「HAART時代の日和見合併症に関する研究」班(主任研究者:安岡 彰)もCD4数が50/μL以下で、血中HIV RNA量が10万コピー/mL以上の症例では抗HIV治療時に免疫再構築症候群の発症に注意すべきである8)としている。

 表X-4には、Walkerら9)の総説に記載されている免疫再構築症候群の危険因子を示す。今後のさらなるデータ集積が求められるが、表に掲げたような因子をもつ症例に抗HIV治療を始める場合には、免疫再構築症候群の発症に注意しながら経過をみていく必要がある。インテグラーゼ阻害剤をベースとする抗HIV治療で免疫再構築症候群を発症するリスクが高いとの報告があった10)。しかし、非核酸系逆転写酵素阻害剤に対するラルテグラビルの追加効果を検討した無作為化試験や結核患者を対象としラルテグラビルと非核酸系逆転写酵素阻害剤を比較した無作為化試験、14の臨床試験のメタ解析では免疫再構築症候群の発症率に有意差を認めなかった11-13)。インテグラーゼ阻害剤の速いウイルス量の低下が免疫再構築症候群発症に関与する可能性はあるが、特殊な状況を除いて免疫再構築症候群のリスクのためにインテグラーゼ阻害剤を避ける必要性はない。

表X-4 免疫再構築症候群の発症に関連した危険因子
宿主要因
  • 抗HIV治療開始時の低CD4数(<50/μL)
  • 抗HIV治療開始前に日和見感染症の発症
  • 遺伝的素因(HLA-B44, HLA-DR4, TNF-α-308*I, IL-6-174*Gなど)
  • 日和見感染症診断時の乏しい免疫反応
病原体要因
  • 病原体抗原量(播種性感染、くすぶり感染)
  • 高HIV-RNA量(≧10万コピー/mL)
治療要因
  • 日和見感染症治療後短期間での抗HIV治療開始
  • 抗HIV治療後の血中HIV-RNA量の急速な減少

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