抗HIV治療ガイドライン(2025年3月発行)

V初回治療に用いる抗HIV薬の選び方

9.曝露前予防・曝露後予防を行なっていてHIV感染症に感染した場合について

 2022年11月、「日本におけるHIV感染予防のための曝露前予防(PreExposure Prophylaxis;PrEP)利用の手引き」88)が日本エイズ学会から発行された。日本では2024年8月、TDF/FTCがHIVの予防を目的として薬事承認を受けた。TAF/FTCはHIVの予防を目的とした薬事承認は得られていない。米国では経口PrEPを使用したことのある人はない人の4〜7倍薬剤耐性変異を獲得している可能性が高いことが報告されている89)。PrEP開始前のHIVスクリーニング検査を適切に受検していない場合、開始時にウインドウ期でスクリーニング検査陰性の場合、PrEPのアドヒアランス不良などの場合には、HIVに感染後もTDF/FTCやTAF/FTCなどの治療としては不十分な2剤を気付かずに内服していることとなり、それによる抗HIV治療開始前の薬剤耐性変異獲得が本邦でも報告されている90)。PrEPを内服していてHIVに感染した場合には、抗HIV治療開始前に上述の薬剤耐性検査を迅速に行い、結果を待つべきである。結果が判明する前に医療費助成の制度が取得できて抗HIV治療を開始する場合には、サルベージ療法を考慮する(第VII章参照)。TAF(またはTDF)とFTC(または3TC)に、DTGまたはBICまたはブーストされたDRVの組み合わせや、キードラッグを2種類とした4剤療法も考慮可能な選択肢であるが、薬剤耐性の結果が判明してから必要に応じて専門医療機関に相談して治療薬を再考する。薬剤耐性検査の結果なしにDTG/3TCを開始してはならない3)

 また、日本では2025年3月現在カボテグラビル(CAB)注はHIVの予防を目的としての薬事承認が得られていないが海外などでCAB注によるPrEPを受けていてHIVに感染した場合には、インテグラーゼ阻害剤に対する薬剤耐性変異を獲得している可能性がある。治療開始前に上述の薬剤耐性検査を迅速に必ず行う。結果判明前に治療開始が必要な場合にはTAF(またはTDF)とFTC(または3TC)にブーストされたDRVの組み合わせを選択することとなる3, 4)

 INSTIベースの曝露後予防(PostExposure Prophylaxis;PEP)(保険適応外)の使用にもかかわらずHIVに感染した場合、薬剤耐性検査を迅速に行い結果を待つべきである。結果判明前に治療開始が必要な時は、TAF(またはTDF)とFTC(または3TC)に、DTGまたはBICまたはブーストしたDRVの組み合わせで治療開始してもよい3)

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