IX抗HIV薬の副作用
8.体重増加
HRD共同調査による日本人における治療開始後の体重の推移を図IX-3に示す85)。
図IX-3 日本人における治療開始後の体重の推移
体重の推移(インテグラーゼ阻害剤の有無別)
(調査期間:1997年8月から2022年3月)

2)治療経験が無く(naïve)かつINSTIを投与がある患者
† 本調査の登録時に抗HIV薬処方歴が無の症例(抗HIV薬併用療法の薬剤うち1剤でも変更された時点で脱落とし、experencedに移行)
※0ヶ月のベースラインはINSTIを問わず抗HIV薬の治療開始時点とした。

4) 治療経験が有り(experienced)かつ本調査前及び本調査期間中においてINSTIの投与がある患者
‡ 本調査の登録時に抗HIV薬処方歴が有の症例または、naïveの患者において抗HIV薬併用療法の薬剤が1剤でも変更された症例
※0ヶ月のベースラインはINSTIを問わず抗HIV薬の治療開始時点または、初めて併用療法の薬剤が1剤でも変更された時点
INSTIを含む初回治療ではNNRTIやPIを含むレジメンよりも体重増加が大きいと報告されている86-91)。INSTI間の比較では初回治療の無作為化臨床試験において、ベースラインからの平均体重増加はBICとDTGでは同等でEVG/cobiよりは大きかった86)。しかしながら、臨床コホートにおいて体重増加にはINSTI間の差は認められなかったという報告も出ている92)。NNRTIの中ではRPVの方がEFVよりも体重増加が大きい86)。DOR、DRV+rtv、EFVをベースとする初回治療の臨床試験の解析(男性85%。白人63%、黒人20%)では96週での体重増加の平均値はそれぞれ2.4kg、1.8kg、1.6kgと類似の結果であった93)。NRTIでは、TAFを用いた初回治療ではTDFを用いたレジメンよりも体重増加が大きいという報告がある86, 87)。HIV非感染MSM(白人84%、黒人9%、アジア人4%)を対象としたPrEP(曝露前予防:pre-exposure prophylaxis)に関する研究において、96週後にはTDFでは0.5kg、TAFでは1.7kgの体重増加が認められた94)。TDFでは体重増加抑制効果が認められるのに比較してTAFでは一般人口の体重増加に近い変化であるとする論文もある86)。
薬剤変更に伴う体重変化に関しては、EFVからEVG/cobiへの変更、EVG/cobiからDTGもしくはBICへの変更により体重増加を認めたが、DTGもしくはブーストPIからBICへの変更では有意な体重変化は見られなかったと報告されている95)。前述のREPRIEVE試験の参加者を対象とした解析では、INSTIの使用は、最初の2年間はBMI増加と関連していたが、それ以降は関連が認められなかった96)。TDFからTAFに変更した場合、特にINSTIとの組み合わせの場合に体重増加が大きく97)、また、変更後9ヵ月間での体重増加が大きいという報告がある98)。逆にTAFからTDFへの変更にて、体重増加が抑制されたとする報告がある99, 100)。TAFを含む3剤レジメンからDTG/3TCへの変更では変更群と変更しなかった群との間に体重の差は認めなかった101)。カプシド阻害剤のレナカパビル(LEN)ではTAFを含むレジメンの場合は体重増加が顕著であったが、TAFを含まないレジメンでは体重増加はmildであった102)。
BIC/FTC/TAFから持効性注射剤であるCAB+RPVへ変更した際の体重変化は、SOLAR試験の48週における解析において注射剤変更群で-0.40kg、BIC/FTC/TAF継続群では0.05kgの体重増加であった。同様に、胴囲、ウエストとヒップの比率、およびインスリン抵抗性の変化は、2群間で類似していた103)。FLAIR試験においてもCAB+RPV注とDTG/ABC/3TCの比較では体重変化に差を認めなかった104)。
抗HIV薬関連の体重増加は、治療開始時のCD4数低値、血中HIV RNA量高値、女性、人種(黒人とヒスパニック系)が関与する86, 87, 91, 105, 106)。そのメカニズムとしては、治療開始時の"return to health"の概念も含め様々な機序が想定されている107)。INSTIは脂肪細胞に直接作用し、脂肪細胞の分化・代謝に影響することが報告されている108-110)。
ADVANCE試験(年齢中央値31歳)で最も体重増加の大きかったTAF/FTC+DTG群ではQDIABETESを用いた概算による10年後の糖尿病発症リスクは上昇すると予測され、QRISKを用いた概算では心血管リスクは上昇しないと予測された111)。D:A:D試験においては、BMI増加に伴い糖尿病は増加したが心血管疾患は増加しなかった112)。ARTによる体重増加がCVD発症や生命予後に与える影響については対象者の背景やARTの種類によっても異なり、今後、長期にわたり経過を観察していく必要がある。