抗HIV治療ガイドライン(2025年3月発行)

XI結核合併症例での抗HIV療法

5.ARTの開始時期

 結核の診断がついたときに、すでに以前よりARTを行っている患者では、ARTがウイルス学的に有効であれば抗HIV薬はそのまま継続し、結核の治療を開始する。ただし、ARTの内容により、リファマイシン系薬との相互作用に注意する。ARTがウイルス学的に有効でなければ中止し、結核の治療を優先する。

 結核の診断がついた時点でARTを行っていない症例については、結核の治療を優先する。結核の治療を失敗した場合、死に至る可能性があるためだけでなく、周囲への二次感染を引き起こし、多剤耐性結核菌の出現をもたらす可能性があるからである。

 結核の治療開始後に新たにARTを開始する場合は、【3.HIV感染症合併結核の治療上の問題点】で示した3点についての配慮が必要であり、いつからARTを開始すべきか悩む症例が多い。

 ART未治療の場合、CD4数が50/μL未満で結核性髄膜炎が疑われない場合は、結核治療開始後2週間以内にARTを開始すべきである(AI)12)。CD4数の多いART未治療患者については、結核性髄膜炎が疑われない場合、結核治療開始後2〜8週間以内にARTを開始すべきである(AI)12)。髄膜炎を合併している場合は、IRISを発症すると致命的になるので髄膜炎がコントロールされてから(結核治療開始後、少なくとも2週間以降で)ARTを開始するべきである12)

 早期開始群では副作用によりARTの薬剤変更を行った例が有意に多かったという指摘もあり15)、結核薬4剤、ART3剤、日和見感染症予防薬等の多剤を服薬せざるを得ない状況ではやはり副作用には注意が必要である。多剤耐性結核菌や耐性HIVの場合は、薬剤の選択がさらに複雑になり、慎重な判断が求められる。ARTの開始時期については上記基準を一律に当てはめることはせずに、症例ごとにベネフィットとリスクを検討すべきである。

PAGE TOP