IX抗HIV薬の副作用
9.体重増加
INSTIを含む初回治療ではNNRTIやPIを含むレジメンよりも体重増加が大きいと報告されている 94-99)。INSTI間の比較では初回治療の無作為化臨床試験において、ベースラインからの平均体重増加はBICとDTGでは同等でEVG/cobiよりは大きかった 94)。しかしながら、臨床コホートにおいて体重増加にはINSTI間の差は認められなかったという報告も出ている100)。FLAIR試験において持効性注射製剤CAB/RPVと経口薬DTG/ABC/3TCの比較では体重変化に差を認めなかった101)。NNRTIの中ではRPVの方がEFVよりも体重増加が大きい 94)。DORベース治療、DRV+rtvベース治療、EFVベース治療の3つの初回治療の臨床試験の解析(男性85%。白人63%、黒人20%)では96週での体重増加の平均値はそれぞれ2.4kg、1.8kg、1.6kgと類似の結果であった102)。NRTIでは、TAFを用いた初回治療ではTDFを用いたレジメンよりも体重増加が大きいという報告がある94, 95)。HIV非感染MSM(白人84%、黒人9%、アジア人4%)を対象としたPrEP(曝露前予防:pre-exposure prophylaxis)に関する研究において、96週後にはTDFでは0.5kg、TAFでは1.7kgの体重増加が認められた103)。TDFでは体重増加抑制効果が認められるのに比較してTAFでは一般人口の体重増加に近い変化であるとする論文もある 94)。
薬剤変更に伴う体重変化に関しては、EFVからEVG/cobi への変更、EVG/cobiからDTG もしくはBICへの変更により体重増加を認めたが、DTGもしくはブースト PIから BICへの変更では有意な体重変化は見られなかったと報告されている104)。TDFからTAFに変更した場合、特にINSTIとの組み合わせの場合に体重増加が大きく105)、また、変更後9か月間に体重増加が大きいという報告がある106)。INSTIとTAFの両方を含むレジメンへ変更した場合の解析で、INSTI への変更とTAFへの変更は個別に体重増加に関連しており、変更後8か月間の大きな体重増加はINSTIに関連していて、その後の緩徐な体重増加はINSTI とTAFの併用に関連していたという別の報告がある107)。
抗HIV薬関連の体重増加は、治療開始時のCD4数低値、血中HIV RNA量高値、女性、人種(黒人とヒスパニック系)が関与する 94, 95, 99, 108, 109)。そのメカニズムとしては、治療開始時の "return to health"の概念も含め 様々な機序が想定されている110)。HRD共同調査による日本人における治療開始後の体重の推移を図IX-5に示す111)。
ADVANCE試験(年齢中央値31歳)で最も体重増加の大きかったTAF/FTC+DTG群ではQDIABETESを用いた概算による10年後の糖尿病発症リスクは上昇すると予測され、QRISKを用いた概算では心血管リスクは上昇しないと予測された 112)。D:A:D試験においては、BMI増加に伴い糖尿病は増加したが心血管疾患は増加しなかった 113)。ARTによる体重増加がCVD発症や生命予後に与える影響については対象者の背景やARTの種類によっても異なり、今後、長期にわたり経過を観察していく必要がある。
図IX-5 日本人における治療開始後の体重の推移
体重の推移(インテグラーゼ阻害剤の有無別)
(調査期間:1997年8月から2022年3月)

2)治療経験が無く(naïve)かつINSTIを投与がある患者
† 本調査の登録時に抗HIV薬処方歴が無の症例(抗HIV薬併用療法の薬剤うち1剤でも変更された時点で脱落とし、experencedに移行)
※0ヶ月のベースラインはINSTIを問わず抗HIV薬の治療開始時点とした。

4) 治療経験が有り(experienced)かつ本調査前及び本調査期間中においてINSTIの投与がある患者
† 本調査の登録時に抗HIV薬処方歴が有の症例または、naïveの患者において抗HIV薬併用療法の薬剤が1剤でも変更された症例
※0ヶ月のベースラインはINSTIを問わず抗HIV薬の治療開始時点または、初めて併用療法の薬剤が1剤でも変更された時点