IX抗HIV薬の副作用
8.リポジストロフィー
抗HIV薬を長期間内服している患者で、リポジストロフィーと呼ばれる体脂肪の分布異常(腹部内臓脂肪の増加と、手足・顔面の皮下脂肪の減少)が生ずることが報告されている 89, 90)。明確な原因は不明であるが、脂肪細胞のミトコンドリアDNA量の減少が認められることからNRTIのミトコンドリアDNAポリメラーゼγ活性阻害が一因と推測されているが、PIの使用との関連も示唆されている。ART開始後数ヶ月ほど経てから徐々に明らかとなり、25〜75%の症例に発症するとされる 91)。リポジストロフィーは糖・脂質代謝異常を来すとともに頬のやせた特有の顔貌になり、美容上の観点から患者には苦痛となる。
リポジストロフィーは、QOLの低下、服薬アドヒアランスに影響をもたらす有害事象である。その予防・対応として、チミジンアナログを回避し、ABCもしくはTDFやTAFを使用するかNRTIを使用しない組み合わせを選択することが勧められている 35)(図IX-4)。薬剤の変更により、四肢の皮下脂肪は回復するが内臓脂肪の増加は改善しにくいとされている 92)。一方、ART未経験者におけるABCまたはTDFを含むART開始後の脂肪量の増加及びリポアトロフィー(四肢における10%以上の脂肪量の減少)の発症率が16.3%と報告がある 93)。
図IX-4 チミジンアナログ(AZT, d4T)から変更後の脂肪量の推移



AZTまたはd4TからABCまたはTDFに変更したあとの脂肪量の推移について、DEXAを用いて計測した変化を示す。
Moyle GJ, et al. AIDS. 20:2043-2050, 2006